「いい声」を出すために大切なのが、「姿勢」と「呼吸」。姿勢については本連載の2回目でご紹介したので、今回はいい声を出すために最適な「呼吸」の仕方について。メディアトレーナー、ボーカルディレクターとして、芸能界のトップアーティストを指導する「表現」のプロである中西健太郎さんの新刊『姿勢も話し方もよくなる声のつくりかた』より、「(声は)鳴らすより吹く」ほうがいい、というその理屈と、呼吸が安定するための練習法をひとつご紹介します。
「いい声」を出すためのカギを握るのが「姿勢」と「呼吸」です。「姿勢」の取り方は、本連載で以前とりあげたので、ここでは呼吸の話をしましょう。
声というのは、「勝手に鳴る」ものだと思ってしまいがちです。
もちろん、「鳴る」という表現が、理屈として間違っているとはいえません。
しかし、声のトレーニングをするうえでは「吹く」というイメージをもったほうが確実にうまくいきます。
理由は2つあります。
ひとつは、声が出る仕組みは管楽器と同じです(音源である声帯を空気が通り抜け、胸腔や鼻腔などボディの空洞に響くことで音が出る)から、文字どおり「吹く」ことで音が出るからです。
もうひとつは、吹くためにはその前に空気を吸い込んでおく必要があるので、体に空気がたまると、胸腔などの空洞が広がることで声が響きやすくなるためです。空気が体に十分入っていない状態で大きな声を「鳴らそう」とすると、喉を酷使して声帯を痛めかねません。
では、どういうふうに「吹く」のがいいのか。
少し実験をしてみましょう。
口の前に、5センチぐらい離して手の平を立ててみてください。
大きい声で「あ」と声に出して言ってみます。
そして次に、軽く細く「フーっ」と息を吹いてみましょう。
どちらのほうが手に息が当たりましたか?
「あ」と声を出すより、軽く息を吹いた後のほうが、はるかに息が当たりますよね。
そのぐらい、声を出しているときの息というのは「細い息」なのです。声を出すときの息の特徴は「細い呼吸であること」です。
よく「歌を歌っているときに息が続きません」という方がいますが、声を出すとき必要なのは細い呼吸ですから、よほどのことがない限り足りなくなるということはありません。つまり、「息が続かない」と感じられるときは、必要以上に息を太く吐いているなどの息の効率が悪いケースがほとんどです。
しかし、声を出すうえでは、細くてもしっかりとした「圧力のある息」を送ることは必要です。吐く息の圧力のことを「呼気圧(こきあつ)」というのですが、呼気圧は高めに保てたほうがいい声が出ます。
現代人は、そもそも呼吸が浅めで、体の中に十分な空気が入っていない状態の人が多くいます。すると、胸がぺしゃんとなって姿勢も悪くなるし、呼気圧が低くなるので、いい声も出ません。だから、まずは気持ちよく深く息を吸って胸に空気を取り込んでおくことが基本です。
ここでひとつ、よい呼吸法をお教えしましょう。
鼻から息をたっぷり吸って、気持ちよく吸いきったところで3~5秒ほど止めます。そうしたら力を抜いて、自然に息を吐きましょう。これを3~5回繰り返します。そうして、胸腔に息がしっかりと入っている状態を体に覚え込ませるのです。
肺に息をしっかり入れてあげると、いい姿勢を取るのも、よりラクになります。胸腔もしっかりとし呼気圧も高く保てるので、発声も非常にスムーズになり、声もよく響き、喉も痛めにくくなります。
特に、声量を上げたい、もう少し太く響く声を出したいという人には、日頃から体内にたくさんの空気を入れておくよう、しっかりした呼吸を心がけましょう。
メディアトレーナー/ボーカルディレクター
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業後、ボイストレーナーとしてキャリアをスタート。多くのスター育成に関わり、担当アーティストはオリコンのシングルランキングで10位以内を連発。日本武道館のような1万人超が入るライブ会場でも通用する、場の空気を一瞬で買える「声」を伝授している。現在では、キー局のアナウンサー研修やメディアトレーニングも実施。短期間でスターを育て上げる手法は、多くのアーティストや芸能事務所、レーベル、テレビ局から信頼を受け、「カリスマをつくるカリスマ」と評されている。エンターテインメントでの経験を活かし、「日本人に決定的に欠けている表現力のスキルを向上させ、日本の未来に貢献したい」という思いから、2014年からビジネスパーソンを対象としたレッスンやセミナーを開催。受講者は上場企業のCEOのほか弁護士や医者、大学教授、科学者、コンサルタント、カウンセラー、役人、学生など多岐にわたる。ビジネス界とはまったく異なる発想が瞬く間に評判を得て、東京、大阪、宮城、山口、福岡など全国各地でキャンセル待ちが続出するほどの人気を博している。