会社のバランスシートでリスクを取れ
村上:もう1点、リスクを取りきれない理由を挙げると、「この事業が取り得るリスクってどのくらいなの?」っていうのをバランスシート的に考えていないから。要は「投資の枠は5億」って言われた途端、10億の投資ができないということ。
例えば、5億の予算フルフルの投資だと、「これ、俺らのキャパをフルフルで使ってるのに、勝率は6割程度やなあ」ってなると、怖くて手が出せなくなる。だから、ちゃんとひとつひとつのバランスシートやリスク許容度を見て、許容度を超えるときには上の階層に上げて、この課、この事業部、この会社全体での許容度と、各レベルのバランスシートを含めて見ていかないと。だって、事業部レベルのバランスシート、つまり調達余力しか使えないんだったら、大きな傘の下にいる意味がないですからね。会社にとって大きなチャンスがあるなら、事業部を超えて、会社としてリスクを取っていかないと。それを判断するのが経営でしょう。
朝倉:これは企業の部門ごとの悪平等意識という側面もあるんでしょうね。
ある総合商社が持っていた事業を売ったんですよ。もともと買収した先から一定条件を達成すると買い戻してもらうことを織り込んだディールではあったそうなんですけどね。なんでこの事業を売ったのかというと、その事業部で次の投資資金の枠がないから捻出するために売ったんだと。これ、おかしな話で、本来であればそれこそ全社レベルでのファイナンスの観点から判断すべき内容でしょう。この事業部門が攻めるべきだと思うんだったら、上手く回っている海外の事業はそのまま置いておいて、「こっちの部門にもっと予算を回そう!」って判断をすればいいのに、部門ごとに同じサイズの財布をベースに考えていると。合成の誤謬のお手本のような話だと感じます。
村上:そもそも、多くの会社ではこのレベルの議論にも達していないと思います。多くの会社ではバランスシートはPLに比べてあまりに軽視されている。全社もそうだし、事業部レベルのBSとなると、なかなか意識されていません。
*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年10月12日に掲載された内容です。
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。