サンディスクやサムスンのエンジニアの考え方

ちきりん  ただ、内容はともかくとして、技術経営ってエンジニアにも人気がありますよね。ということは、いまの若い人は「技術と同時に、技術経営が必要だ」と学生の頃から認識しているということですよね。

竹内  認識しているというより、学生は流行り廃りには敏感なんです。日本の技術経営の教育でもう一つ問題なのは、技術経営がプレゼン手法などの表面的なものに陥りがちなことです。本来は、まず武器としての「技術」を学生が何かもっていて、それにプラスして「技術経営」があれば強いと思うんですけど、そうなっていない。私は自分の研究室の学生には、とにかく若い時は技術をやれ、技術経営なんて、技術をやって、30歳になってからでも間に合うからと言っています。若い時は、技術など、若い時にしかできないことをやらないと。

ちきりん  それは海外の学生やメーカーエンジニアはどうなんですか? 日本のエンジニアよりも視野が広いとか、経営により根源的な興味をもっていたりするんでしょうか?

竹内  いや、その点では同じです。ただ、サンディスクのエンジニアなどを見ていると、日本人エンジニアとは大きく違う視点をもっていますね。「自分は何で食っていくか」をしっかり考えていることです。

 たとえばオタクのエンジニアは、とことん狭い領域にこだわった技術でしか生きていけませんよね。すると、いま、自分がやっている分野は非常に狭いから、いつかサンディスクの社内でも不要になって消えていくかもしれない。だったら、とことん技術を掘り下げて第一人者になっておくのは当たり前としても、インテルやマイクロンの中に知り合いをつくって自分の実力を知っておいてもらおう。そうすれば、サンディスクからこの技術開発は不要だよと言われたときでも、インテルに横滑りできると。みんな自分の人生をしっかり考えてますよ。

ちきりん  サムスンのエンジニアはどうでしたか?

竹内  サムスンのエンジニアもしっかり考えていますよ。サムスンの人事制度はいわゆるアップ・オア・アウトで、幹部に昇進できなければ40歳くらいでクビを切られてしまう厳しい会社なんです。それに、技術だけでは出世できない会社です。サムスンの場合、商品企画というマーケティング方面に行く人が出世コースに乗るんですよ。ですから、もし35歳くらいまでにマーケティングコースに行けなかったとすると、「俺はもう、サムスンでは偉くなれない」と悟ることになるわけですね。

 では、自分はどうやって生きていこうかと考える。学会へ行って社外にコネをつくっておこうとか、論文発表をしておこうとか、とにかく自分の将来のために役立つことを考えるわけです。

ちきりん  なるほど、海外のエンジニアは、組織にどっぷり依存しているわけではなく、自分の将来の生き方を考えつつ常に動いている、ということですね。日本のエンジニアの方のキャリア形成にも、おおいに参考になりそうな話ですね。

(続く)
※第3回は5月8日、第4回は5月10日に公開予定です。


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