発売1ヵ月経たずして6万部を突破した『転職の思考法』著者の北野唯我さんが、「良き師匠として、いつもアドバイスを仰ぐ」という為末大さんとともに、「人生100年時代のキャリア論」をテーマにトークイベントを行いました。後編となる今回は、スペシャルゲストとしてNEWPEACEの代表、高木新平さんをお迎えし、若手ビジネスパーソンが抱えるリアルな悩みに答えていきます。
(構成:大矢幸世 写真:中里楓)

古い人間を変えるには、「移民」が必要。新規事業がうまくいかない理由

北野 ここまで為末さんと、「人生100年時代のキャリア論」について議論を交わしてきました。ここからはゲストを迎えようと思うんですけど……。

為末 ずいぶん待たせてしまいましたね。

高木 本当ですよ!(笑)どうも、高木新平と言います。北野とは博報堂の同期だったんですけど、僕は東日本大震災をきっかけに会社を辞めて。それから次々とシェアハウスを立ち上げたり、起業家の家入一真さんとITサービスつくったり、ネット選挙運動解禁を主導したりした後、NEWPEACEという会社を起業しました。

高木新平(たかぎ・しんぺい)
1987年富山県生まれ。博報堂に入社するも一年で独立。「よるヒルズ」や「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを各地に立ち上げ、ムーヴメントを牽引する。またネット選挙運動解禁を実現した「ONE VOICE CAMPAIGN」などを主導。そのライフスタイルが、NHKなど様々なメディアに取り上げられる。2014年、多様なクリエイターを集め、"VISIONING COMPANY" NEWPEACEを創業、代表に就任。自社事業からクライアントワークまで境目なく、様々な分野で新たなビジョンづくりを仕掛けている。

北野 イベントの後半はこの3人でみなさんからの質問に答えようと思います。

参加者 先ほど「自分の置かれた環境」の話がありましたが、やはり、上司やその上の人たちを変えないと組織は変わらないと感じます。どうしたら変えられるでしょうか。

北野 じゃあ、せっかくなので高木からいきましょう。

高木 そうですね……。新しい価値観って、それを持った人々が多数派にならない限り大衆には浸透しないので、まだ何かが決定的になってない途中段階で現場の思考回路を変えるのは、正直無理だと思うんです。僕らの「ビジョンを掲げる」という仕事にはデータ的根拠はなくて、「未来に対する意志」でしかない。そんな未来志向な意思決定ができるのって、だいたいはオーナー創業者なんですよ。

そしてそれがうまく形になるときには、現場の力が重要。そこにはたいてい良い「移民」がいるんです。移民というのは、会社の既存事業の理屈ではなく、これからの新しいビジネスの論理に基づいた考え方を持った転職組のこと。そういう人がプロジェクトメンバーには絶対必要なんです。

ただ、「ジョブホッパー」と「ジョブビルダー」は似て非なるもので、前者が条件交渉だけがうまくて年収が上がっていくような人だとすると、後者は自分なりの論理を持って新しい世界に飛び込んでいける人。会社の論理に左右されないから、意志を貫くことができる。でもトップダウンで強いビジョンが無い限りは、移民は古い人間に潰されがちなんですよね。過去の成功体験のほうが強いですから。

為末 古い人間と言うと?

高木 これから未来を生きる人に対して、「自分と同じような経験をするだろう」と思い込んでる人ですね。だから、自分の経験に基づいた判断しかできないんですよ。過去起点というか。一方で、孫正義さんや柳井正さんとか、真の経営者は「これから変わること」を前提に未来起点で考えますよね。考え方から、決定的に違うんです。

お金は奪われても、身につけたスキルは絶対奪われない

参加者 先ほど為末さんから「自分にあまり期待しない」というお話がありましたが、自分に対する期待値をどうコントロールすればいいでしょうか。

北野 僕の好きな言葉にユダヤの教えで「自分が裸になったときに残るものが、自分の本当の価値だ」というものがあるんです。お金は他者から奪われることがあっても、自分の知識までは奪われない。自分の原点をどこに置くかによって期待値はコントロールできると思っていて、たとえば会社を辞めようとすると「もったいない」とか言われるじゃないですか。でも、僕はいつもいうのは「でも、あなた博報堂で働くために、生まれてきたの?」「BCGで働くために生まれてきたの?」「違うでしょ、あなたはあなたとして生まれてきて、たまたま博報堂とか、BCGとかってラベルが付いたんじゃないですか」と。実際、自分が真っ裸になってみると、これまでの経験や仲間が自分の価値を形作ってくれていると気づくわけです。そこに原点を置いてみると、自分への期待値はうまくコントロールできる気がします。

為末 博報堂を辞めたときには何を持ち運べたんですか?

北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

北野 何も持ち運べなかったですね(笑)。でも、転職って「比較優位をもたらすこと」でもあるんですよ。たとえば、僕は広告業界にいたときは、正直、僕よりコピーライティングのうまい人は山ほどいたけど、いま、こうしてHR業界に足を置いて執筆してみると、自分のコピーがめちゃくちゃバズったり、いろんな人に刺さったりする。いまの自分の技術は大したことないと思っていても、他の業界に行ったら案外役立つことがあるのかもしれません。

会社に抜かれた「牙」を、どう取り戻せばいいか

参加者 私、新卒の会社でめちゃくちゃ「牙を抜かれた」んです。組織の中ですごくやりたいことがあっても、周りの環境からそれを許されなかったり、どんどん牙を抜かれて丸くなったりしてしまう。それを取り戻すことはできるんでしょうか。

北野 ちょっと前に「凡人が、天才を殺すことがある理由」というブログエントリを書いてバズったんですけど、まさにそれですよね。会社が天才をどう扱うかによって、その組織の未来は決まっているな、と思っていて。Googleの米国本社副社長兼日本法人社長を務めた村上憲郎さんがおっしゃってたんですけど、優秀な人材が活躍するには、「放し飼い」しかない、と。Googleって天才もいるわけなので。それで、「天才はたまに破壊的な成功を手に入れるけど、必ず失敗する。僕らにできるのは、そのときに謝ることだけです」って。

為末 確かに、私の周りの天才はいい意味で破綻してる人が多い。放牧しすぎず、ほどほどにちゃんと見ているのも重要でしょうね。

高木 僕は最初の会社で、いろんなことが重なって「人生のポリシーと違う」と思って、辞めてしまった。その後、ひょんなことから3年くらい家入一真さんと一緒にいろんな活動をしたけど、彼は本当にめちゃくちゃなんです(笑)。自分がよっぽど前のめりなこと以外は、120%遅刻するし、取材やイベントもすっぽかすし、メールは数百通溜まったら全部削除する。でもある意味それで、自分が本当にやりたいことや付き合える人をフィルタリングしてるところがあるんですよ。真似をしようとは思わないけど、それを間近で見ていてある意味で「ビジネス」から自由になれたんです。そういうぶっ飛んだ人の近くにいることで、牙は復活させることができます。

北野 有名な「ノミの話」と同じですよね。いつもノミが飛ぶ高さより低い位置に天井をつくると、ノミは何度もぶつかるうちに天井より低く飛ぶようになる。一度その環境に慣れると、天井を取り払った後も、ノミはずっと低い位置でしか飛べません。でも、生きのいいノミを新たに投入すると、それを見た古参のノミは、「飛ぶこと」を思い出すと。

「何もできることがない」と思ったら、真剣に人の話を聞くといい

為末大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2018年7月現在)。現在はSports×technologyに関するプロジェクトを行うDeportare Partnersの代表を務める。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『走る哲学』『諦める力』など。

為末 僕がいつも「気をつけないといけないな」と感じているのが、ある種、「勝者の論理」みたいなものがあるような気がして。みんながみんな、唯一無二の存在になるのも難しいと思うんです。では、「自分の人生には何もないのか」というとそうではなくて、最近になってようやく「社会の役に立とう」という方向性が定まった。そうすると、いろんなことがクリアになってきたんです。

今日の話とは矛盾しているかもしれないけど、自分の人生の中でもっとも気持ちの良かった瞬間は、オランダでとある方の家にお邪魔して、おじいさんとおばあさん、おじいさんの兄弟の3人で話しながらご飯を食べていると、「さあ、そろそろ君の話を聞かせてくれ」と言われて、自分の人生を語ったときのことなんです。あのときほど、自分が「受け入れられている」と感じたことはなかった。そんなふうに、「何もできることがない」と考えていても、周りの人の話をしっかりと「聞く」だけでも、その場にとってなくてはならない役割を果たすこともできるんじゃないかと思います。

高木 誰かに相談したとしても、結局最終的に決めるのは自分なんですよね。だからアドバイスを鵜呑みにしちゃいけない。この三人の話も(笑)そう確信したのは、僕が高校時代のとき。大学を受験するときに、ある先生は「とにかく国立を目指せ」、別の先生は「現役で入れる私立を狙え」、もう一人は「一年浪人したほうがいい」とアドバイスしてくれたんですけど、よく考えたら、みんなそれぞれ国立、私立、浪人という選択をしてきた人だった。つまり、人は自分の経験からしか物事を語れないんです。でも時代の変化が激しい今は、すぐに前提か変わるから、そんなアドバイスは無意味なんですよ。

北野 おもしろいですね。最後に、僕から。僕が「いつでも転職できる」というカードを持ったほうがいいと考えているのは、とある人事担当者が語っていた言葉がきっかけなんです。その人は、会社の歯車みたいにシステマティックに働くばかりで、全然仕事が楽しくなかったそうなんです。でも、ある朝起きて、退職届を書いてスーツの胸ポケットに収めた途端に仕事が楽しくなったと言うんですよ。「いつでも辞められる」という覚悟を持つと、上司の目も気にせず言いたいことを言えるようになって、結果的に成果も出るようになって、会社にとってプラスになった。会社からも評価されるようになって、やりたい仕事ができるようになった、と。これはまさに仕事の本質だと思うんです。長時間労働とかブラック企業とか、最近、さまざまなところで顕在化してる日本の課題もそこに起因していて、「会社=自分の人生すべて」と考えてしまうと、いざ、組織が間違った方向に進むと、取り返しのつかない事故が起きる。この本では、会社はあなたのすべてじゃない、いつでも転職できるんだっていうことを一人でも多くの人に伝えたいなと考えています。

高木 ……なんか立派なことを話してるから元同期として言わせてもらいますけど、最初にこいつが「会社を辞めてアメリカに行く」って聞いたとき、てっきり「優秀だし、海外で就職先でも決まったのかな」と思ったら、普通に「とりあえず語学学校に行ってみる」って、バックパッカーのノリでしたからね! それから日本に帰ってきて、「作家さんに弟子入りしてストーリーテリングの技法を学ぶ」って言い出してそのときもわけがわかんなかったけど、こうして一冊の本になって、論理的な話をして……親の立場みたいに感慨深いですよ(笑)。ただ、ひとつよかったのは、北野も僕も、恐れずに「打席」に立ち続けたこと。だから、最初はバラバラだった点と点が、だんだん線になってきた。スティーブジョブズが言ってた「Connecting Dots」の本質は、未来になると点が線になるということではなく、打席に立ち続けることでしか線はつくれない、ってことなんですよ。

北野 本にも書きましたけど、「失敗につながる唯一の条件は、覚悟を決めるべきときに覚悟を決めきれないこと」ですからね。みなさん、今日はありがとうございました!

(おわり)