フランクル心理学に欠かせないユーモア
フランクルは心理学者であり独自の哲学・思想をつくりあげた人です。というと、「眉間にしわをよせて四六時中気難しい顔をしている無口な人」というイメージが湧いてくるかもしれません。フランクルはその対極にある人物でした。ユーモアを愛し笑いを愛する明るくエネルギッシュな人間性の持ち主だったのです。
著名人の講演・スピーチ映像を集めた『TED』に、フランクルの講演(Viktor Frankl: Why believe in others)?が収録されています。お時間のある方はぜひ、「TED フランクル」で検索してご覧になってください。明るくてパワフルな人間であることがすぐに理解できます。
晩年は失明状態にありましたが、家族を笑わそうとその明るさは亡くなる直前まで変わらなかったそうです。
フランクルといえば『夜と霧』であり、その著には凄惨さを感じさせる記述があります。ですので、フランクル心理学には一種の「暗さ」「深刻さ」がつきまといます。
一方で、フランクルの人間性や「逆説志向」に見られるユーモアをポイントにする点は、その反対ともいえる特徴です。「ユーモア」「笑い」の観点を抜きにして語ると、フランクル心理学は底の浅いものになります。
そこで拙著『君が生きる意味』では、「小さい変なおじさん」が時にくだらない「おやじギャグ」を飛ばすというコミカルな物語にしました。
笑うことは健康によく、体と心によい影響を及ぼすことは心理学だけでなく、広く医学の観点から推奨されていることです。
辛く苦しい時に「ユーモア」など「けしからん」という声も世にはありますし、「そんなの無理だ」という否定論もあります。ですが、自分自身を「笑い飛ばす」ことで、辛く苦しい状況をくぐり抜けていく人たちがいるのも事実です。
フランクルは強調しています。
人はどんな時にも、自分の置かれた状況に屈しない心の力を持っている。その時、どんな態度をとるのか、それは本人の決断にかかっていて、その態度をとる自由は何ものにも奪えないのだと…。
ナチスの強制収容所で、人間らしい模範的な態度をとる人物が存在しましたし、ユーモアを語り合い笑いあった人々が存在したのはまぎれもない事実です。
ユーモアによる笑いもまた、心を強くする選択肢のひとつであり、それを選びとる自由はいつでも保証されています。
笑ったからといって急に何かが解決できるわけではありませんが、笑うことで心が潤い、その場が明るくなるのは確かです。
真剣だけど深刻にならず。真剣だけどユーモアを忘れず。自分のため、大切な人のために、笑うことを忘れないでいましょう。
◇引用文献
[訳]春秋社)
※1『神経症1』(V・E・フランクル[著]、宮本忠雄、小田晋[訳]みすず書房)
※2-4『夜と霧』(V・E・フランクル[著]、霜山徳爾[訳]みすず書房)