2階の住人が1階を押しつぶす
解約防止策を始める前のWOWOWは、それまでの優良顧客が新規顧客の状況にそろそろ嫌気がさし始めていた時期と言えるかもしれません。
その頃の状況を外部の調査会社は、「2階にいる新規加入者が急激に増加し、昔からの優良顧客がいる1階を押しつぶす可能性がある」と表現していました。
1階の優良顧客は、長年WOWOWに感じていた本質的な価値が今後も提供され続けるのか、2階にどんどん人を引き込む(それも割引価格で!)ことに、熱心なWOWOWの様子を見るとそろそろ不安になってきた、そんなふうに感じ始めていたとしても不思議ではありません。
優良顧客を、自社のサービスを守り続けるための特別な存在として認識し、優良顧客に学ぶ姿勢を持つことが、健全な顧客構造を維持するのに非常に大切だと私は感じ始めていました。
顧客のライフタイムバリューをあげて定着させるためには、優良顧客が契約を継続する理由になっている自社の価値を認識し、その価値を他の顧客にも感じてもらう努力をすることが必須です。
解約抑止を担当するチームは、解約しようとする人を翻意させる解約抑止から、本来のCRMに活動の中心を移し始めました。
社内の雰囲気が変わりはじめる
解約リテンションやデプスインタビューを実施し、新たな解約防止策を打つことで、解約率は減少傾向を見せ始めました。
組織の中で成果を印象づけようとする場合、最も効果的なのはトレンドがプラスになっていく変化を見せることです。たとえ小さな変化でも、ゼロがイチになり、それが右肩上がりに伸びていくトレンドをどの企業も求めています。
解約リテンション施策は、「解約は何をやっても止まらない」と考えている社内に対して「やり方によっては解約が止まる」を提示してゼロをイチにし、その後の成功率の伸びによってトレンドも変えられることを示しました。
派手な宣伝や販促を行う新規獲得に比べ、解約抑止は実績が見えにくいため地味ではありますが、社内の意識は少しずつ変わりはじめました。
(続く)