社長が「無料施策を全面的にやめる」と宣言
解約抑止策が効果をあげるだけでなく、加入獲得の際にも解約抑止を念頭において無料施策をひかえることが、優良顧客の割合を高める効果があると明確になり始めたころ、WOWOWの営業戦略に次の地殻変動が起きました。
「今後は価格施策を行わない。これからWOWOWは番組で売っていく。専ら番組の質で加入者を増やす有料放送局になる」と社長が宣言したのです。
前にも書いた通り、価格施策が中心だった頃の営業マンの仕事は、キャンペーン実施にあたって、値引きやオファーのバリエーションを考えることでした。当時すでに解約抑止や番組の上質さで加入を獲ろうという動きは始まっていたものの、従来からのそのやり方も続いていました。
そこに突きつけられた、価格施策は行わないという変更に営業現場は当惑しました。
「今までの営業手法がすべて否定された」「価格施策がないと加入が減るのではないか」という声が出て、改めて多くのキャンペーンに何らかの価格施策が絡んでおり、営業現場は価格施策以外の発想を持ちにくくなっていることが感じられました。
「価格施策をしないのなら、何をすれば良いのかわからない」という営業部門の反発の声もありましたが、それを聞いた社長は「わからないなら、やらなくてよし」と、旧来の営業のやり方を突き放しました。
私はそのきびしいやり取りをドキドキして見守りながらも、社内の空気が変わり始めていることを実感していました。
カスタマーリレーション局長になって2年目。私はまた社長から人事の内示を受けました。次はマーケティング局長です。
「顧客視点で考えると、加入するまでの営業と加入後のカスタマーリレーションは一体であるべき」なので、プロモーションから加入獲得という「入り口」と、加入後の解約抑止を一連のマーケティングとして行えという内示でした。
解約が増加し加入者数が底にあった時期に発足した解約防止部は、獲得重視の営業局と対をなす局になり、さらに顧客獲得からエンゲージメントまでが一連の戦略として実施されることになりました。
旧来型の営業手法や体育会型のマネージメント手法は、なくなりはしないものの随分縮小しました。気づくと私は、企業が成長期から成熟期へと移行し、安定的な新しい成長スタイルを定着させる時期の変化の真っただ中にいました。