事業の選択と集中は「言い訳なしでやればできる」

朝倉 事業の選択と集中は、ファイナンス的な発想に基づいて、理屈のうえでは正しいことですはありますが、人がひもづくと、やはり思うようには進まないケースが大半だと思います。それをやりきるための極意とは?

小林 事業のフェーズや自分の立場によって違うでしょうね。いずれにしても、言い訳なしでやればできる。ビジネス人生で一番楽しいのは事業部長や子会社の社長といったビジネスの責任者だとつくづく思う。世界中を飛び回り、人を差配して、結果を出す。先鋭的に部隊の先頭で戦っているときは、時代の風を感じながらビジネスができる。研究室で試験管を振っているより、そっちのほうが性に合っていたのかもしれない。自分で自分は分からないものですよね。ただし、今みたいなコングロマリットの持ち株会社の会長はまた、つまらないね(笑)。行動もビルの会議室に限定されがちで、時代感性がなくなることを恐れるべきですよね。

「会社を成長させることより、一緒にやってきたメンバーに嫌われたくないとういことが目的化した社長に驚く」と朝倉さん

朝倉 新興企業のトップとお話ししていても、会社を本気で成長させること以上に「一緒にやってきたメンバーに嫌われたくない」とそれが目的化している社長もいて驚かされます。

小林 かつては社長が次の社長を指名するのが一般的だったから、どうしても、自分が会長にあがってもゴルフや酒の席に誘ってくれそうな、愛い奴を選ぶ仕組みになっていたんじゃないですか。それが間違いなんだ。威勢がよくて危ない奴は選ばれず、「いい奴」しか社長になれなかった。それでも、大量生産で決まった製品をきちんと作っていれば儲かった時代はよかったんです。でも、今は本当のクリエ―ションができないと会社がつぶれる時代ですよ。委員会等設置会社として指名委員会で社外取締役も入るという、次期社長を選ぶプロセスも一般化され、だいぶ変わってきているとは思います。

朝倉 基礎研究は今後、国やアカデミアとコラボレーションしていくということですが、一般論として日本の基礎研究は足腰が弱ってきているという指摘もあります。その点に不安はないですか。

小林 今朝も、政府の総合科学技術・イノベーション会議で議論してきたのですが、第5期科学技術基本計画(2016~2020年)では、米国のようなプラットフォーマーになれなかった反省がある一方で、材料など基礎研究で日本が強い部分はまだまだある。ただし、基本的にどのテーマに関しても縦割りが強くたこつぼ化して横串が刺されていないので、いざ事業化しようにも時代の風を読む仕掛けがない。政策という意味でも、文部科学省や経済産業省がたこつぼ化していて、同じことがいえる。ベーシックリサーチだから好きにやらせろ、という時代は終わったのではないかと思いますよね。巨額な予算を投じて大掛かりな装置でやるような研究はある意味お祭りであって、今後はセレンディピティ的な研究(偶然や予想外の発見)に大きな成果は期待できない。それより、このデータセントリックな時代にあって、中国も欧州はデータの囲い込みをはじめ、米国もGAFAが個人データを押さえにかかっているのに、日本はまったく出遅れていることのほうに危機感を感じます。

人生というゲームを楽しみながら勝ち抜く

朝倉 小林さんのように、技術も理解して経営を語れる経営者が今後はもっと必要ですね。

「いい国つくろうなんて暗記してても意味がない」と小林さん

小林 中国の政治家は胡錦濤にしろ習近平にしろ、みな技術に詳しい。日本はまず、できる人はみんな東大法学部に行って、外資系のコンサルティング会社か投資銀行に行く、という価値観をぶっ壊さないとダメなんじゃないか。文系・理系なんて区分けする時代は終わったね。若いうちにベーシックサイエンスを勉強して、社会に出てから政治経済を勉強するといった、機会を設けたらいいんじゃないかな。

朝倉 ご自身は進路を選ぶとき、ゼロイチの世界のほうが心が落ち着くからと理系の道に進まれたんですよね。

小林 文学部に行って、何の人生の意味も見いだせなかったら死にたくなる危険があるでしょう(笑)。でも、理系は少なくとも「1+1=2」と答えを教えてくれるから。
 世界的なベストセラー『サピエンス全史』の著者ノア・ハラリみたいなバイオサイエンスに通じた歴史学者も、世界には出てきてるよね。人間もDNAをベースにアルゴリズムで全部解析できる時代がきている、というのに、いまだに「いい国(1192)つくろう、鎌倉幕府」と暗記する教育なんてくだらないよ。スマホで調べれば、全部書いてあるんだから。それより、どれだけ生きることへの洞察ができるのか、どこに自分の生きる意味やロマンを見出すのか、考えさせるべきだね。
 人生なんて意味はないんだ。偶然の出発を前提に生きているだけで、そのうち偶然死んでいく。でも、せっかく生きるなら何かを残すのもいいじゃない。この社会に生きている結果を残して死んでいくには、人生というゲームを楽しみながら勝ち抜かないといけない

*本対談のダイジェスト版は『週刊ダイヤモンド』9/15号第一特集「ファイナンス思考 PL脳をぶっつぶせ!」に掲載されました