「日本人ならヨシノリ・オオスミ(大隈良典)の名前は聞いたことがあるじゃろう。彼は、細胞内の老廃物を除去するシステム、いわゆるオートファジーの仕組みを解明したことで、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞することになった。細胞内に溜まるタンパク質の分解はリソソームという細胞小器官が担っているんじゃが、ここに異常が起きることでカスが蓄積し、細胞セネッセンスが進むのではないかと考えられている(**)」
細胞セネッセンス! これは先週のレクチャーでも登場したキーワードだ。
そういえば……と思った私はスコットに質問をした。
「脳の老化にも、やはり例の長寿遺伝子、テロメアが関係しているの?」
いつのまにか私は必死になりつつあった。身体の老いはなんとかごまかせても、脳の老いはそういうわけにはいかない。
「もちろん大アリじゃ。実際、若いうちから認知機能の低下が起きている人では、テロメアの短縮の傾向が見られる(***)。
また、テキサス州ダラスに住む2000人を対象にした脳画像の調査では、テロメアが短い人ほど、脳の萎縮が起きていることが示された。しかもサイズが小さくなっていたのは、海馬・扁桃体・側頭葉・頭頂葉など、アルツハイマー病で萎縮が見られる場所だったんじゃ。となると、テロメアの長さは脳の老化、ひいてはアルツハイマー病の発症に大きく関与している可能性が高い(****)」
**** King, K. S., Kozlitina, J., Rosenberg, R. N., Peshock, R. M., McColl, R. W., & Garcia, C. K. (2014). Effect of leukocyte telomere length on total and regional brain volumes in a large population-based cohort. JAMA Neurology, 71(10), 1247-1254.
「え! 2000人もの脳細胞のテロメアを調べたってこと?」