果糖はどのように
体に入っていくか

果糖の代謝プロセス1  尿酸が生まれ、痛風をもたらし、血圧が上がる
 処理量が3倍になるということは、ブドウ糖だけだったときに比べて、肝臓が代謝のために必要とするエネルギーも3倍になるということだ。こうして、肝臓細胞からアデノシン3リン酸(ATP、細胞内でエネルギーを運ぶ重要な化学物質)が奪われる。ATPが欠乏すると、老廃物である尿酸が生成され、痛風をもたらすとともに、血圧を上昇させる。

果糖の代謝プロセス2 直接ミトコンドリアに入り、パンクさせる
 果糖はグリコーゲンの生成過程には入らずに、直接ミトコンドリアに入る。するとアセチルCoA(コエー)が過剰に生成され、それを代謝するミトコンドリアの能力を超えてしまう。

果糖の代謝プロセス3 脂肪になり、心臓病を押し進める
 余ったアセチルCoAはミトコンドリアを離れ、代謝されて脂肪になり[2]、心臓病を押し進める原因になる。

果糖の代謝プロセス4 肝臓がインスリン抵抗性になる
 果糖は、肝臓内で炎症を引き起こす肝酵素を活性化する。これによりインスリン作用の主要メッセンジャーが不活性化され、肝臓はインスリン抵抗性になる。

果糖の代謝プロセス5 血糖値が上がり、糖尿病につながる
 肝臓でインスリンの作用が欠乏するということは、ブドウ糖を低く抑える手段がまったくなくなるということだ。そのため、血糖値が上がり、究極的に糖尿病が引き起こされる。

果糖の代謝プロセス6 内臓脂肪が増える
 肝臓にインスリン抵抗性があると、膵臓が余分なインスリンを分泌しなければならなくなり、余分なエネルギーを脂肪細胞に送ることになって、最終的に肥満になる。エネルギーが最も多く詰めこまれる先は、代謝性疾患に関連付けられている内臓脂肪細胞だ。

果糖の代謝プロセス7 がん発症の可能性が高まる
 インスリンの血中濃度が高いと、さまざまながんが発症する危険性がある[3]。

果糖の代謝プロセス8 空腹感が高まる
 インスリンの血中濃度が高いと、レプチンシグナルがブロックされて、脳の視床下部に「飢えている」という誤った考えを抱かせ、空腹感が高まる。

果糖の代謝プロセス9 腸壁のバリア機能を奪い、インスリンレベルを上げる
 果糖はまた、腸壁のバリア機能を損なっている可能性がある。正常な場合、腸は血流にバクテリアが侵入するのを防いでいる。だがこのバリア機能が損なわれると、腸壁に穴があく。その結果は「リーキーガット」〔腸管壁浸漏症候群〕[4]で、体は炎症や、より多くの活性酸素にさらされるようになる。この状況はインスリン抵抗性を悪化させて、インスリンレベルをさらに押し上げることになる[5]。

果糖の代謝プロセス10 メイラード反応が生じ、がんの発症を加速させる
 果糖は、細胞に直接ダメージを与えかねないメイラード反応をブドウ糖より7倍速く引き起こす。研究はまだ初期の段階にあるものの、予備実験の結果、影響を受けやすい環境下では、果糖は老化とがんの発症を加速させると示唆されている。

果糖の代謝プロセス11 認知症が起こる
ヒトにおける果糖と認知症の結びつきに関するデータは現在のところ相関してはいるが、直接的なものではない。とはいえ、インスリン抵抗性と認知症に関するデータには、はっきりした因果関係がある。アフリカ系とラテン系のアメリカ人は、アメリカ最大の果糖消費グループで、胴回りも最大だ(インスリン抵抗性を示す)。それと同時に、この2つのグループは、認知症のリスクも最も高いグループになっている。

[1] W. L. Dills, Jr. (1993) “Protein Fructosylation: Fructose and the Maillard Reaction,” The American Journal of Clinical Nutrition, 58 (5 Suppl): 779S-87S.
[2] V. T. Samuel (2011) “Fructose Induced Lipogenesis: From Sugar to Fat to Insulin Resistance,” Trends in Endocrinology and Metabolism, 22 (2): 60-5.
[3] R. J. Shaw et al. (2012) “Decoding Key Nodes in the Metabolism of Cancer Cells: Sugar & Spice and All Things Nice,” F1000 Biology Reports, 4: 2.
[4] S. Thuy et al. (2008) “Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Humans Is Associated with Increased Plasma Endotoxin and Plasminogen Activator Inhibitor 1 Concentrations and with Fructose Intake,” The Journal of Nutrition, 138 (8): 1452-5.
[5] M. Maersk et al. (2012) “Sucrose-Sweetened Beverages Increase Fat Storage in the Liver, Muscle, and Visceral Fat Depot: A 6-Mo Randomized Intervention Study,” The American Journal of Clinical Nutrition, 95 (2): 283-9; N. K. Pollock et al. (2012) “Greater Fructose Consumption Is Associated with Cardiometabolic Risk Markers and Visceral Adiposity in Adolescents,” The Journal of Nutrition, 142 (2): 251-7.

(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です。訳者による要約はこちらからご覧になれます)

著者について
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。