顕微授精は精子の状態が
悪い男性には向かない

 顕微授精では、必要とする精子は1匹で良いため、精子の数の少なさをカバーすることができるが、DNA損傷などの精子機能の質的な異常をカバーすることはできない。要するに、精子の状態が悪い男性には不向きな治療なのだ。しかし現状では、生殖補助医療の約8割を占めており、精子の状態が悪い男性の唯一の治療法になっている。ここに大きな矛盾があるという。

「精子に関する知識の不足と、精子技術の出遅れなどが、『顕微授精ならば精子の状態が悪くても、1匹でも精子がいれば妊娠可能である』というイメージにつながったのではないでしょうか。また生殖補助医療業界全体として、顕微授精で穿刺する精子を選ぶ際に明確な基準がないことに対して疑問が持たれることがなく、生まれてくる子は当然健常であると信じられてきました。今日まで、顕微授精で生まれた子どもの先天異常をはじめとするリスクに目が向けられることはありませんでした」

 細胞には遺伝情報を正確に伝達するために、傷ついたDNAを修復する機構が備わっている。この「DNA修復機構」は、細胞の正常性を維持するために必須であり、極めて重要な仕組みだ。例えば、皮膚や肝臓などの一般的な細胞では、DNAが多少損傷しても、細胞自身が持っている「DNA修復酵素」によって修復される。これはヒトの卵子も同様である。

 一方、ヒトの精子は、精子が造られる過程でDNA修復能力が失われてしまうという、特殊なDNA修復機構を備えており、DNA修復酵素を持っていない。その結果、損傷したDNAは修復されることなく残り、射精された精子の一部にDNAが損傷した精子が混在していくことになる。

 その頻度は個人差が大きく、損傷程度も精子ごとに大きく異なるという。DNAが損傷した精子は、卵子に侵入した後に、卵子が持っているDNA修復酵素によって修復されるが、不完全な修復にとどまったり、修復されないまま、というケースもあるという。