小説家になったのは、それが「運命」だったから
本田:小説家になることも「運命だった」「決められていた」とお考えですか?
吉本:私の中で、人生のバリエーションは、「3つ」しか見えなかったんです。ひとつは、「誰も儲からないけど、誰もが幸せを感じられるお店」を経営している自分。たとえば、バーとかカフェとか。
2つ目は、動物関係の仕事をしている自分。たとえば、イルカの調教師とか。
私は尋常なくらい動物が好きなので、イルカの調教は、人生を燃やせる仕事になったと思うんです。動物関係の仕事に就くと、毎日、泣いたり、笑ったり、苦しんだり、悲しんだりするかもしれないけれど、もっとも充実して、もっとも情熱を感じられたと思います。
では、どうして小説家になったのかといえば、それはもう結婚と同じで、「決まっていたから」です。「決まっているから、しかたがない。やるしかない」と。
本田:「やるしかない」という理由で小説家になって、天才と呼ばれて、世界的にも大活躍をされて…。小説家を志す多くの人が「ばななさんみたいになりたい」と夢見ていると思います。ばななさんご自身としては、「小説家として成功してラッキーだな、嬉しいな、幸せだな」と感じることはありますか?
吉本:ラッキーという気持ちはではなくて、「決まっていたから、しょうがない」という気持ちのほうが強いですね。でも、幸せではないかといえば、そんなこともなくて……。
バブルが弾ける直前くらいかな、「これは、いけない」と思ったことがありました。書くべきことはいっぱいあるのに、自分で書いたものに、自分でワクワクできない。つまり、心が動かないんです。心のどこかで「自分の本が書店に並ぶのは当たり前」と思うようにもなっていて、「このままではマズイから、もう一回、仕切り直したほうがいい」と思ったんですね。
そんな決心をしたあとにやってきたのが、出版不況です。出版不況に見舞われたことで、あらためて「本を出せるだけでも嬉しい」という気持ちを取り戻せた気がします。それに今の時代は、書きたいだけ書いて、自分でネットにあげることもできるので、そういう意味では「幸せだな」って思いますね。
(第4回に続く)