ごちゃごちゃ文句を言う
「やいやい言うの好きですなあ」
こちらの言葉は、新大阪駅に近いお寺に掲げられていました。「やいやい言う」は関西弁で、「ごちゃごちゃ文句ばかりを言う」「面倒くさいことを言う」という意味の表現です。
不平不満の絶えない人がいます。何かやるときに文句のひとつでも言わないと損した気分にでもなっているのでしょう。
インターネットの世界でも、他人をディスるような文句や批判であふれています。誰かのスキャンダルが報じられると、それがその人の人格そのものと勘違いされ、サイトが炎上することも珍しくありません。
すべては何かのイチブ
次の掲示板は香川県のお寺です。
「すべては何かのイチブってことに僕らは気づかない」
これは、B'zの2009年のヒット曲「イチブトゼンブ」の歌詞の一節です。わたしたちは、人間や物事の一部しか見えていないのに、それを全部だと思いがちです。インターネット上では特にこうした狭い視野や了見が、無駄な争いを引き起こす大きな原因になっています。
以前、仏教の教えに触れることによって、愚者になる(愚者の自覚を持つ)ことの重要性をお伝えしました。ネット上での炎上の大半は、「自分自身がすべてを見通せない愚者である」という自覚のなさから起こっています。
批判を書きこむ前に、「自分には物事のイチブしか見えていない」ということに思い至る必要があるのではないでしょうか。
また、アメリカのスコット・フィッツジェラルドが書いた『グレート・ギャツビー』(村上春樹訳/中央公論新社)という小説の冒頭に以下の一節があります。
僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。
「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」
「批判」という言葉を聞くと、私はこの一節をよく思い出します。他人の一部を見て、それを批判したくなったときには、自分がいままでいかに恵まれて生きてきたかについて思いを巡らせ、そのことに感謝の気持ちを持つ。このような姿勢も重要ではないでしょうか。
やいやい言う前に、「愚者の自覚」と「恵まれていることへの感謝の姿勢」。この両方をぜひ身につけたいものです。
(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)