「30年後には、日本のGDPは世界第9位になるという国の調査もある。もはや先進国とは呼べない国になるということだ」

 何年か前に出た調査報告だ。それは、最悪のケースだ。しかし最近のデータを見ると、そのまま最悪に突き進むような気もしてくる。

 「明治維新に匹敵する新しい日本の動きを作らなければ、日本の生き残る道はない。日本は明らかに重大な窮地に立っている。緩慢な死に通じるものだ。なんとか脱出しなければ手遅れになる」

 他の議員たちも大きく頷いている。

「日本はもう行き着くところまで行っているんだ。君もそう思わないかね」

「私の発言する場ではありません」

「君はやはりキャリア官僚だね。用心深すぎる。マスコミはいない。我々も口外しない。このような場所では本音を言ったらどうだね。つまり日本は、これ以上、発展の余地はないどころか、衰退あるのみということだ。ただし、現在のままであればの話だが」

 森嶋はやはり答えることが出来なかった。少子高齢化を筆頭に地震、津波、台風に晒される地勢的条件、またエネルギーの大部分を輸入しなければならない現状を考えるとその通りだ。原発の停止以来、エネルギーの海外依存度は大幅に増え、企業の海外移転も加速している。そして最も危惧すべきは、国民に漂う閉塞感なのかもしれない。日本は、これ以上発展の余地はない、と殿塚は言い切った。

「現在の1都、1道、2府、43県の区分けは、江戸時代の藩制の延長と考えてもおかしくはない。まさにその通りなのだから。当時はそれでよかった。東京、大阪間を歩いて15日、速馬で5日かかったんだ。人口も少なく経済規模も小さく、地方で自立出来ていた。つまり日本は、現在の何十倍も広かったんだ」

 殿塚は軽く息を吐いて続けた。

 「それからおよそ150年、とっくに新しい時代に入っている。新幹線で東京大阪間は2時間30分、飛行機では1時間で結ばれている。世界の出来事がその瞬間に日本経済に影響する。このグローバル世界においては、現在の県単位ではとても自立出来ないし、世界に太刀打ち出来ない。さらに広域な単位に置き変える必要がある」

 殿塚の口調が強くなった。