世界がつながるほど、私たちの社会は脆くなる
――「正のフィードバック」について説明していただけませんか?
私がよく使うのは、銀行の利息の例です。
あなたが銀行にお金を預けているとしましょう。利息が2%だとすると、あなたのお金は36年で倍になります。これが「正のフィードバック」です。利息が5%なら、14年で倍になります。
「正のフィードバック」は社会の随所で見られ、経済成長の推進役にもなります。中央銀行が金利をこれだけ低く抑えているのは、正のフィードバックを引き起こしたままにしたいからともいえます(金利が低いと、多くの人が借金をして消費するため)。
しかし、金利をずっと低く抑えているとやがてインフレにつながることは周知のとおりです。「正のフィードバック」が過剰に働くとマイナスの結果をもたらします(多くの人がローンを組んでマイホームを購入すると、住宅価格が上がり、結果として不動産バブルやインフレが生じる)。
私が懸念しているのは、インターネットによって社会が過度につながると、社会に正のフィードバックが増え、結果的に不安定さや株式市場で起こったような思考感染が生み出されてしまうのではないか、ということです。
――『つながりすぎた世界』の中で述べていることは、意図しない結果なのでしょうか、それとも、起こることを予想していたのでしょうか?
意図しない結果は、ものごとが極端な状態になり、誰もそのことを考えないから生じるのです。たとえば2000年の財政危機のとき、店頭デリバティブの想定元本は60兆ドルでした。これは世界の経済産出量に匹敵する額です。
それが2007年には600兆ドルにまで膨れ上がり、それがありとあらゆる問題を引き起こしました。つまり、この財政危機において「社会がつながりすぎている」という点が重要な役割を果たしたというわけです。
当初、店頭デリバティブはリスクを分散させる方法と考えられていました。しかし実際はその逆で、リスクを集中させる結果となりました。アメリカでは2008年にAIGが経営危機に陥ったため、政府が最大850億ドルの融資を決定したほどです。