例えば、経理課の若手担当者、山崎さん。
真面目で几帳面。仕事は正確であり、お金を扱う部署だけに、上司の評価は、優秀とのことです。
しかし、先ほどから、営業課の池田さんと、もめています。
どうも、池田さんは、緊急の交際費支出の必要性が生じたので、今回にかぎり、社内ルールの例外扱いにして決裁してもらいたいとのことです。
しかし、懇願にも近い形で頼み込む池田さんに対して、山崎さんは、「とにかく、社内ルールに従ってください」の一点張りです。
困り果てた池田さん、「山崎さんは、頭が堅いな……」とぼやきながら、営業課に戻っていきました。

この経理担当の山崎さん、経理に関する知識と技能については、極めて優秀です。そして、今回の社内ルールの例外を認めるか否かについても、必ずしも間違った判断ではないでしょう。山崎さんの立場では、例外を認める権限はないからです。
しかし、この池田さんとのやり取りを見ていると、山崎さんは、ビジネスパーソンとしては、このままでは、なかなか成長していけないでしょう。そして、優れたプロフェッショナルになることは、難しいでしょう。

なぜでしょうか。

「真面目な人」を、褒め言葉だと思う危うさ

優れたプロフェッショナルは、自分の中に、様々な「人格」を持ち、それを、仕事の場面や状況に応じて、見事に使い分けるからです。

しかし、山崎さんは、この場面で、自分の中の「経理担当者人格」でしか対応していません。いや、対応できないと言うべきでしょうか。

では、山崎さんは、どう処するべきでしょうか。
たしかに、この場面で、山崎さんが「経理担当者人格」だけで処するならば、自分に権限の無い「例外」を認めることはできないでしょう。従って、「認められません。社内ルールに従ってください」と言わざるを得なくなります。
しかし、もし、山崎さんの中に、もう少し視野の広い「マネジャー人格」が育っていれば、こうした場面では、その人格が前に出てきて、池田さんに対して、「自分には、例外を認める権限は無いけれども、そちらの営業課長からこちらの経理課長に話を通してもらえれば、何とかできると思います」といったアドバイスができたでしょう。

実は、世の中で、「頭が堅い」「融通が利かない」と言われるビジネスパーソンには、こうした山崎さんのようなタイプが多いのです。
目の前の状況に対して、一つの人格でしか対応できず、その場の状況に合わせて、柔軟に「適切な人格」で対応することができないタイプです。