マイカー依存の地方都市はもちろん
東京圏もMaaSでさらに便利に

 Whimユーザーの利用交通手段は、サービス開始前は公共交通48%、自家用車40%だったが、開始後は公共交通が79%に増加、自家用車は20%に減少したとの調査結果が出ているので、マイカーを減らしたいという当初の目的は果たされたことになる。

 車を排除したり自家用車を取り上げたりするのではなく、自家用車を持たなくても移動できる選択肢を提示することで、人々の生活スタイルを少しずつ変えていく、その地道な取り組みがMaaSである。過度な自家用車依存と公共交通の縮小が進む日本の地方都市にとって、ヘルシンキの成功事例は大きな示唆に富むだろう。

 ところで東京23区内の交通機関別分担率は、公共交通が80%、自家用車は20%弱である。東京都心の自家用車保有率は低く、旅客輸送はもっぱら公共交通機関が担ってきたため、Whimのサービスメニューを特別目新しいと感じないかもしれない。ヘルシンキが目指した以上の公共交通網が既に完成されている東京には、MaaSは関係ないのだろうか。

 確かに、数分おきに電車が来て、1枚のICカードで運賃支払いができる東京圏の高度な交通ネットワークは、慣れ親しんだ行動範囲の中では十分にMaaSが実現されていると言えるかもしれない。だが、東京郊外の南北移動や埼玉南部の東西移動など、鉄道が整備されていない区間を移動しなければならない時、どうやって行けばいいか迷った経験はないだろうか。

 東京圏では逆に、選択肢として鉄道しか示されないことが課題となる。バスやシェアサイクルを組み合わせることで、より早く簡単に移動できることも少なくないが、時刻表が分からない、乗り方が分からない、登録が面倒など、いくつものハードルがあって敬遠されがちだ。これを簡単、気軽に利用できるようにして、現実的な選択肢に仕立てるのも立派なMaaSである。

「mobility(モビリティ)」の概念は日本ではあまり定着しておらず、「モバイル端末」など形容詞のmobileのほうがピンとくるかもしれない。移動性、可動性と訳されるmobilityは、動くモノ自体を指すのではなく、人間が主体に動く、動かせることを意味している。好きなところに行くこと、どこにも縛られないこと、移動は人間の自由の根幹である。

 車輪のついた車全般が「car」であるのに対して、特に自動車は「automobile」と呼ぶ。機械の力を使って自動で移動する乗り物が、人間の行動領域をどれだけ広げたか、当時の人々がどれほどの価値と魅力を感じたかが、この言葉に込められている。

 私たちは(自ら保有し自ら運転する)自動車以上に、どこにでも自由に移動することはできるのか。MaaSという果てしない挑戦は始まったばかりである。