筆者の同僚がディレクターを務める東京大学i.school(イノベーション・スクール)では、有志のスタッフと学生が中心となり、昨年の5月から気仙沼の復興支援を続けている。その最新の取り組みである「プロジェクトMaru(丸)」については次回で詳しく取り上げるが、それに先立って、そのサブ・プロジェクトである「ドライフード・ラボ(仮称)」を紹介したい。この取り組みが、上述の日本人の「偏食」に、大きなインパクトを与える可能性を感じるからだ。

 ドライフード・ラボは、プロジェクトのメンバーがイタリア南部の小都市・トラムートラを訪れた際に発見した、日本とイタリアの食文化の間に横たわる、ある「大きな違い」からスタートした。

 トラムートラは、イタリア半島の南端にほど近い、標高約600メートルに位置する高原都市だ。穏やかな気候と豊かな自然環境に恵まれ、新鮮な肉や野菜、果物、牛乳、また、それらを使ったベーコン、ハム、チーズなどの加工食品まで、多くの地産品を生み出している。

 メンバーが滞在したアルベルゴ(旅籠)の女主人・ジョバンナさんは、町一番の料理人として知られる存在だ。トラムートラならではの郷土料理を次々と繰り出し、メンバーの舌を喜ばせてくれたという。特に、2日目のランチのメインディッシュは、メンバーの心を一瞬で鷲づかみにした。Baccala con peperoni cruschi ――バカラとは塩漬けにした干ダラのことで、保存食としてイタリア内陸部で重宝されている。これを丁寧に5日かけて水で戻し、サンドライトマトとともにオリーブオイルで丁寧にほぐして、新鮮なオレガノを和え、揚げたペペローニ(赤ピーマン)と頂く。

食べる者の心を鷲づかみにするバカラ料理。小川悠撮影。

 この料理を夢中で食べているうちに、あるメンバーがふと気づいた。――使われている具材は、ドライフードばかりだ!

 本プロジェクトでトラムートラへと足を運んだ西塔は指摘する。「気仙沼で観光客が食べるものといえば、カツオのたたき、マグロのさしみ、殻付きカキでしょうか。地元の人に聞けば、珍味としてはサメの心臓やマンボウ(酢みそで頂く、夏に最高のつまみ)なども挙がるでしょう。これらの共通点は、生で食べるということ。その背景には、素材の味を活かすには生食が一番という考え方がある。でも、それは一つの価値観に過ぎないんだ、そう気づかせてくれたのがトラムートラでした」。