あらゆる手段で「相手を知る」
これは、ビジネスの交渉でもまったく同じだ。
「相手が置かれている状況」を把握することができれば、交渉において優位に立つことができる。だから、私は交渉相手を調査するために、できる限りの時間と労力をかけるようにしている。
たとえば、有価証券報告書、新聞・雑誌の記事などを数年分さかのぼるだけでも、相手企業がどのような歴史を辿り、現在、どのような状況に置かれているかを察知することは可能だ。あるいは、業界内の人脈を通じた情報も価値が高い。ありとあらゆる手段とルートを使って、交渉相手の調査をするのだ。
私も、ある情報を入手したことで、一気に優位に立ったことがある。
私のクライアントが特許を侵害されたために、欧米企業と交渉を始めることになったときのことだ。相手は、企業規模、資本力ともにクライアントを上回っていたため、難しい交渉になりそうだと思われた。
しかし、交渉準備を進めているときに、クライアントから一報がもたらされた。「相手企業が、水面下で大手と合併交渉を進めているらしい」という情報が、信頼できる業界筋から入ったというのだ。
あくまで「らしい」という不確定情報だ。ただ、それまでの調査で、近年、相手企業の業績が悪化の一途を辿っていることはわかっていた。経営危機とまでは言えないが、なんらかの手立てを講じなければならない状況ではあると推測できた。それだけに、その情報はかなり確度が高いと思われた。