マーケティングとデザインの関係性とは? インサイトを発見するスキルの鍛え方とは?などについて、インタラクション・デザイナーとして活躍する深津貴之さん(@fladdict)に聞いていきます。深津さんはみずからの興味をたどりながら、Flashデザイナー、スマホアプリ開発者など、時代に合わせてキャリアを重ね、現在は、投資家としてもプロジェクトに関わられるように。それを可能とする深津さんの発想やスキル構築のプロセスについて、書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』著者・山口義宏さん(@blogucci)が聞いていく対談後編です。(撮影:疋田千里)

マーケティングはデザインの中の一分野

山口義宏さん(以下、山口) 深津さんはクリエイターでありマーケターともいえると思いますが、深津さんは「マーケティング」をどう定義されていますか。「デザイン」と同様に「マーケティング」も定義があいまいな言葉ですけど。

インタラクション・デザイナーの深津貴之さんに聞く「優秀な、仕事がしやすいマーケター」とは?深津貴之(ふかつ・たかゆき)さん
インタラクション・デザイナー
株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。メディアプラットフォームnoteを運営するピースオブケイクCXOなどを務める。執筆、講演などでも勢力的に活動。

深津貴之さん(以下、深津) 世間一般のマーケティングデザインの定義と僕の考えるそれはだいぶ違うとは思いますけど… 僕個人の定義でいうならば、マーケティングというのは、デザインの中の一分野です。造形やマーケティングを内包する大きな箱として「デザイン」がある。デザイン全体の比較的前半部分を担うプレーヤーがマーケターで、何を作るか、顧客が欲しがるにはどうするか、赤字にならないよう持続的なビジネスモデルをどうつくるか、といった計画部分を担当する人を呼ぶイメージです。その後、顧客が製品・サービスに触れる接触・認識部分から後を担うのが、いわゆる造形する狭義のデザイナーかなと考えています。

山口 深津さんからご覧になって、「優秀な、仕事がしやすいマーケター」ってどういう人ですか。

深津 あまりポエムぽいことを言わない人。ですかね。

山口 逆に言うと、それだけポエムぽいことを言う人がいるってことですよね(苦笑)。

深津 いるんじゃないですか。ノリでキャンペーンをやる人とか、いきなり雰囲気でコードネームや商品の色を決める人。僕は打ち上げ花火が大好きなマーケターはそんなに得意じゃないです。この商品・サービスは何のために存在し、だれのためで、どうすればみんなが欲しがってくれるのか、といったことを理詰めでもいいし、実験を通じてでもいいので、がっつり突き詰めて考えていく人と仕事をするのがやりやすいし楽しいです。

テクノロジーの未来の流れを読む深津流ルール

山口 深津さんがいま20代前半だったら、どういうキャリアを選ばれますか。

深津 どうでしょうね。何をやってるかな。基本的には新しいテクノロジーを触っているはずだから、VTuberあたりで何かやってますかね。学生だといきなり金融系に飛んでフィンテックに携わるのも難しいだろうから。

山口 やっぱりテクノロジーがお好きなんですね。よく「行動を設計する」とおっしゃってますが、使ったことのない技術を人々がどう使って楽しむかは、未来なので本人も設計者も見えないし、どういう点をとっかかりに設計されるのですか。

深津 テクノロジーの流れを読むうえで、僕の中にルールがあります。ルール1は、「怠惰の法則」です。すべてのテクノロジーは、人が怠惰になる方向に進化するんです。3ステップあったものが2ステップになるとか。たとえばコミュニケーションであれば、昔なら4キロ歩いて隣町まで行っていたのが、馬になったり、ハトが飛んだり、飛脚になって、郵便になって、電信になって…と進化してきたわけですよね。
 ルール2は、「エスタブリッシュの民主化」です。要は、王侯貴族や支配者層の特権をテクノロジーの力によってゼロコストでどう再現して庶民に渡すのか、がテクノロジーの本質だと思うんです。Uberやキャスター、スマートニュース、グノシーなども、全部そうじゃないですか。かつては一部の富裕層にしか許されなかった、お抱え運転手や秘書のクリッピング作業といった機能を、一般の人も手に入れることができた。
 そういう本質から考えれば、テクノロジーの使い方として当たるものと外れるものは、8割ぐらいは見当がつくんじゃないかなと思います。細かな違いや速度の多少の読み違いはあっても、「このリンゴがいつ落ちるか知らないけど、秋には落ちる」ことはわかる、という感覚です。

インタラクション・デザイナーの深津貴之さんに聞く「優秀な、仕事がしやすいマーケター」とは?山口義宏(やまぐち・よしひろ)さん
インサイトフォース代表取締役
東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。東京都生まれ。

山口 テクノロジーの進化を、そうやって抽象化して見るとすごい納得です。ちなみに、noteを使わせていただいていて、他にはない優しい世界観があると思うんですが、ああいったプロダクトやサービスの文化とか雰囲気というのは、テクノロジーとの掛け合わせでどう設計されるのですか。

深津 そこは、すごく雑に言えば、自分の原体験の再生産です。自分が子どもの時にあったあれを、今やっても楽しくするには?って考える。インターネット到来で、チャンスが開けて、知らない人にも会えて、よくわからないガキだった自分ににいきなりチャンスが巡ってきたり、スキルが一気に伸びて世界が一気に広がる感覚…、あれすごい楽しかったから今もう一回リバイバルできないか、と考えます。noteの場合は、第1次ブログブームだった2000年代の『電車男』流行前夜あたりの空気感を2019年の環境とデバイスでもう一回作り直していく感じですね。