「おもしろい!」と思われたら、一気にシェアされバズる時代。それは裏を返せば、どんなに時間をかけて作った動画も、広告も、文章も、ほんの少しでも「つまんない」と思われたら、消費者は離れていくシビアな時代。
そこでキーになるのは、「途中で飽きさせない」こと。
本記事では、視聴者が誰も知らない完全な「市井の人」(=素人)を主役にするドキュメンタリー番組『家、ついて行ってイイですか?』の仕掛け人であり、ストーリーテリングの名手であるテレビ東京制作局ディレクターの高橋弘樹氏が、新刊『1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』の内容をベースに、受け手が没入するストーリーに欠かせない「サウナ力」を、具体例とともにお伝えしていく(構成:編集部・今野良介)。
「起承転結」「序破急」だけでは没入できない
ぼくは、ストーリーを作る時に、強く意識している大切なことが1つあります。
それは、できるだけ、「説明」ではなく、「体験」であるべき、ということ。
映像でも、文章でもそうです。何かの魅力を「説明」されても、それでは心は動かされないのではないかと思います。「◯◯さんは、いま悲しがっている」と説明されても、何も心は動かされないのです。
では、どうしたら、「説明」は「体験」に変わるのか。
たとえば、3LDKに住む、最近離婚して家から妻と娘が出て行ったしまった男のノンフィクション・ストーリーを描くとしましょう。
「離婚して、もう子どもと会えないんです」と言われて男に泣かれても、「へぇ~」です。
「家で、楽しそうに焼きそばを作って食べる」というシーンのあとに、「離婚して、もう子どもと会えないんです」と言われても、ぐっときません。むしろ、「は?」って感じです。
なぜ、「は?」か。
それは、この「最近離婚した男」の頭の中だけにある「楽しかった思い出」(過去の体験)を、視聴者が擬似共有できていないからです。
男はいま、涙している。
ということは、離婚して子どもと会えないことに喪失感を覚えているのです。その「喪失感」という「結果」を喚起させるのは、「楽しかった思い出」という「原因」が必ずあるのです。
男は自分の人生だから、それが頭の中にあるのです。しかし、視聴者はその男の半生なんて知らないのです。その男の「楽しかった思い出」なんて知らないのです。
ですから、いきなり「離婚して、もう子どもと会えないんです」と言って泣かれても、すぐには感情移入できない。
ぼくが企画し、作っている『家、ついて行ってイイですか?』という番組のように、「市井の人」や、「無名のもの」を、「ノンフィクション・ストーリー」として描く際には、それに関する「共通知識」も、「共通体験」もないところからのスタートなのです。
だからこそ、「結果」を体験してもらうためには、「原因」も体験してもらう必要がある。
この構造は、まさに「サウナ」です。
サウナは、最後に「水風呂に入る」という結末で最高潮の快感を得ます。そして、そのために、体にあえて「水風呂で奪うべき熱を蓄えさせる」という「体験」をする行為なのです。
「熱」を得るという体験をしなければ、その「熱」を失う体験はできないのです。そして、その先にある、熱を失うことで得られる「効能」(サウナなら快感)も得られない。
先ほどの例で説明します。