「どうしたの?」は魔法の言葉
私は、小さな子どもがウソをついたとき、まずは「どうしたの?」と声をかけてみるということを勧めています。ものを壊してそれを隠していたら「どうしたの?」、約束を守れなかったら「どうしたの?」。極端なたとえですが、たとえ友だちの玩具を盗んだとしても「どうしたの?」。すべてはそこから話しかけるのです。
もちろん、「ダメなものはダメ」「ウソはつくな」ということをしっかりと指導するのは教育の基本であり、社会に出ていく上で不可欠なことです。だからこそ、その前に一度「君は素晴らしい子なのに、そんなことをしちゃって、いったい『どうしたの?』」と、そっと肩に手を置いてあげることが、まだ小さな子どもの心には必要なのです。
すると、子どもの表情は変わります。この大人は、もしかして自分のつらい気持ちや、困惑した気持ちを聞いてくれるのかもしれない。その安心感を持つことで、はじめて、親や先生からの指導を素直に、そしてあたたかい気持ちで心にとどめることができます。
私は職業がら、スーパーなどで万引きをした子どもを、警察署まで引受人として迎えに行くこともあります。
もちろん、本当はその子の顔を見るなり、怒鳴ったりぶったりしたくなるほどの衝動がわきおこります。しかし、それを抑えて子どもにかける言葉は、まずは「〇〇くん、どうしたのよ?」というものだと決めています。
警察官の方に「先生は甘いな、だからダメなんだ」と呆れられることもありますが、親代わりに引き受けに行った私が、まずは子どもの肩を持たずして、いったい誰が彼のやるせない心、ヤケになってしまった心を救うのでしょうか。
これから時間をかけてゆっくり話し合い、そして厳しい指導教育を重ねていき、それを一生の記憶としてきちんと定着させ更生させるためにこそ、まずは「私はあなたの味方である」ことを表明する必要があるのです。子どもの「敵」としていくら非難・説教をしても、逆効果であることは明白なのです。
私は保育園や幼稚園の先生方の前で講演をする機会も多いのですが、「どうしたの?」という大人の声がけが、心を閉じた子どもさんにとっていかに心を開くきっかけとなる「魔法の言葉」になるかということを、強調してお話しさせていただいています。