現場が反発した賃貸借型への転換

青井 じゃあどうするか。赤字の店舗は売却する案もありましたが、その前にまずは貸し出して賃料をいただく賃貸借型でやってみようという話になった。何ヵ所かでトライアルをしてみたら、随分と収益が好転しました。

 たとえば町田にはJRと小田急の駅前にそれぞれ1店舗あったので、賃貸借型と仕入販売型でやってみたところ、収益がかたや右肩上がり、かたや右肩下がりで明暗がくっきり分かれたんです。しかも、人を多く配置し、お金もかけている仕入販売型のほうが落ちていた。じゃあその差は何かと言えば、「ビジネスモデルの違い」です。そこから何ヵ所か実験をしてみて、店舗のオーナーとの関係などで転換できない店などの例外をのぞいて、全店を賃貸借型に変えたんです。

7年間で3000億円の利益が消えた…「いつ潰れてもおかしくなかった」丸井のV字回復戦略とは?小売店舗を仕入販売型から賃貸借型へ
(「共創通信Vo.5(2018年度中間報告書)」より)
拡大画像表示

朝倉 たしかに、貸すほうが確実に収益はとれますけど、まったく違うビジネスにはなりますね。

青井 そうです。ここ数年の変革で現場のみんなが一番「え?!」と戸惑いや反感を隠さなかったのは、この仕入販売型から賃貸借型――弊社では「SC定借化」と呼んでますが、これに転換したときです。責任者の役員も、別の会社に転職した気分だと言っていました。「丸井を壊す気か」と心配している社員もいましたし。

朝倉 それを断行されたのがすごい。

青井 実験して結果が明らかでしたし、実は社員にもわかりやすい仕組みだったのではないかと思います。従来の仕入れ販売型だと、小売り側にとってよい仕入条件を交渉で引き出しやすいカテゴリーの代表がアパレルと化粧品で、だからこそ多くの百貨店はこれらカテゴリーには力を入れていますよね。一方で、賃貸借型になると、相場家賃というマーケットで形成された客観的な物差しがありますから、相場家賃より多く払えるテナントさんと一緒に組むことになります。

 すると、重視すべきは従来のような商品の売上と粗利益率ではなく、店舗不動産の時価に対して何%の利回りが得られるのかという資産効率です。具体的には「NOI利回り」といって、都心なら4%以上、郊外なら7%以上という水準を目安としています。これって、株主が重視するROIやROEにもほぼ直結しますでしょう。ですから、「お客様に喜んでいただけることは、株主にも喜んでもらえること」と社員のほうでも回路が繋がったし、投資家の方からも分かりやすい商売になったのではないでしょうか。

朝倉 現場の方たちから見ても、わかりやすい基準になったんですね。