書物と読書は
歴史を動かす力がある

活版印刷の技術は、中国からヨーロッパへ伝えられたと考えられているが、それを実用レベルに改良したのはグーテンベルクの功績である。

グーテンベルクは1455年、ラテン語で書かれた『ヴルガータ』と呼ばれる聖書を印刷した。
これは俗に『グーテンベルク聖書』と称される。
羊皮紙と紙に合計180部印刷されたと言われており、このうち48部が現存する。
それだけ大切にされていたのだ。

グーテンベルクの活版印刷は、世界を変えた。
なぜなら情報拡散のスピードが格段に早くなり、教会が独占していた知的財産が庶民へと広まったからだ。
その典型的な例が「宗教改革」である。

宗教改革の旗振り役となったドイツのマルティン・ルターは、グーテンベルクの活版印刷技術を用いて教会の腐敗を断罪する意見書を広めた。
さらにラテン語が読めない庶民のために、聖書をドイツ語に訳して出版する。
こうしてローマ・カトリック教会から、プロテスタント(新教)が登場する宗教改革が起こる。

17世紀のヨーロッパで起こった科学革命の背後にも、活版印刷の発展がある。

科学革命の口火を切ったのは、「天動説」から「地動説」への転換だ。
その担い手となったのは、ポーランドのニコラウス・コペルニクスである。
コペルニクスは、『天体の回転について』という本を出版した。
皮肉にも出版した本を目にすることなく彼はこの世を去ったが、地動説の広がりは中世の宇宙観・自然観に、それこそコペルニクス的な転換を迫った。

コペルニクスに続くドイツのヨハネス・ケプラーの『新天文学』、イタリアのガリレオ・ガリレイの『天文対話』、イギリスのアイザック・ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)』といった歴史的な著作が近代の扉を開いて、巨人の肩に乗るディープラーニングが繰り返された結果、18世紀の産業革命の下地を作ったのである。

それまで世界の最先進国は中国だったが、科学革命と産業革命で、世界の中心はヨーロッパへ移ってしまった。
その過去の栄光を取り戻そうとするのが、中国の最高指導者である習近平が唱える「中国の夢」というスローガンだ。

書物と読書のディープラーニングは、歴史を動かす力を持つのである。