さらに極めつけは株式市場だ。米金利低下により金融株の下落が相場の重荷となった上、トランプ大統領の発言を受けた米中貿易交渉の先行き不透明感が市場心理を冷やし、20日のダウ工業株30種平均は前日比141ドル安の2万5745ドル67セントで取引を終えた。

 景気減速に歯止めがかからないとなると、懸念されるのが、企業や国の債務増大という“マグマ”が膨らんできた問題だ。

「ジャンク(投機的)」とも称される、高利回りだが信用度が低い「ハイイールド債」市場の広がりに加え、信用度の低い企業への融資となるレバレッジド・ローンの残高が急増。社債市場では、投資不適格すれすれのトリプルB格の社債の発行残高に占める割合が金融危機後は急激に上昇している。

 そうした中、投資適格すれすれのトリプルB格から投資不適格へ格下げされる企業のことを米国では「フォーリンエンジェル(堕天使)」と呼んでいるが、OECD(経済開発協力機構)やBIS(国際決済銀行)は3月に入って相次ぎ、景気悪化時には一気に堕天使が姿を現しかねないとして警鐘を鳴らしている。信用度の低い企業の債務拡大、投資不適格企業の増加は景気悪化時の信用不安の火種となる。

 企業だけではない。トランプ氏が主導した減税政策の影響などで、米国の財政状況は悪化の一途。19年度以降の米財政赤字は4年連続で1兆ドルを超える見通しだ。

 さらに最近の米国では、「MMT(現代貨幣理論、Modern Monetary Theory)」なる考え方が議論され始めたことも気掛かりだ。議会は政府債務に対して、政府の野放図な債務拡大を防ぐために上限を定めているが、この理論は端的に言えば「米国政府の債務残高増加は問題ない」という主張。ただでさえ、インフラ投資などへさらに予算をつぎ込みたいトランプ氏がFRBに低金利政策を迫り、財政拡大に向けて理論を活用する――。そのようなシナリオに至る政治リスクも高まっていると言える。財政赤字のさらなる拡大は、金利上昇をもたらし景気を悪化させる懸念を膨らませる。

 この先、米景気の減速が続けば、膨張したこの債務のマグマが世界経済の足を引っ張りかねないのだ。