まず、政治の圧力に屈したことは否めない。伏線は昨年12月24日。「米国経済が抱える唯一の問題はFRBだ!」――。トランプ米大統領がツイッタ―にこんな投稿をして、12月18~19日開催のFOMC後に起きた米国株式相場の下落の責任を押し付け、さらにはパウエル議長の解任をちらつかせたことにある。この後、パウエル氏は昨年まで米国経済が好調として利上げ継続の方針を示していたのに、1月のFOMCでは一転して利上げ一時停止を示唆。2月上旬には、トランプ氏がホワイトハウスにパウエル氏を招いて会食するなど、利上げをしないよう圧力をかけ続けている。

 パウエル議長は「トランプ大統領は私を解任できない」と話すなど、表向き金融政策への影響を否定している。ただ、1月以降のパウエル氏の変心は、トランプ氏への“忖度”が働いたと見る向きは少なくない。例えば米CNNでは2月下旬、「パウエル議長がトランプ大統領との関係を問われて話題をそらした」と題した記事で、本当にトランプ氏の圧力がFRBの政策判断に影響を与えていないのか疑義を呈している。

 もちろん、政治からの圧力だけが理由ではない。パウエル氏は今回、欧州や中国経済の減速、米国経済に鈍化の兆しがあることを利上げ先送りの理由に挙げた。英国のEU(欧州連合)離脱をめぐる情勢は3月29日の期限を前に混迷を極める。また何より、パウエル氏を批判するトランプ氏自身が主導する米中貿易戦争こそ、先行きの不確実性を高めている。FOMC後の記者会見で、「英国のEU離脱や(米中で)進行中の貿易交渉など未解決の政策問題は、経済の見通しにリスクをもたらす」とパウエル氏が述べている通りだ。

 米国の景気減速を示す指標も目立っている。アトランタ連邦銀行が公表するGDP(国内総生産)の短期予測「GDPナウ」の19年1~3月期の成長率は前期比年率0.3%増と、18年10~12月期の速報値(同2.6%増)からの急激な落ち込みを示唆している。さらには、米景気の先行指標とされる2月のISM(米供給管理協会)製造業景況感指数は前月から2.4ポイント低下し、54.2と2年3ヵ月ぶりの低水準となった。

景気減速に歯止めかからず
企業・財政の債務リスク増大へ

 加えて、利上げ停止の方針が打ち出されても、市場は米国の景気減速を警戒するかのような反応を示している。FOMC発表を受けた20日、米債券市場では長期金利が急低下(債券価格は急上昇)。米10年物国債の利回りが1年2ヵ月ぶりの低水準となった。外国為替市場では円相場が一時1ドル=110円台半ばと、ほぼ3週間ぶりの円高・ドル安水準に上昇した。