日銀の金融緩和策の出口戦略は手遅れになるか?行動ファイナンスを専門とする小幡績さんが、資産運用ロボアドバイザーのウェルスナビCEOの柴山和久さんにサービス内容をあれこれ質問した前編につづく後編では、ふたりとも元財務官僚を地でいく金融論議へ。(撮影:疋田千里)

次の景気停滞局面で日本に何が起こるか

柴山和久さん(以下、柴山) 私からも、小幡さんの専門領域で一つお聞きしていいですか?

 日本銀行のバランスシートの先行きについて、小幡さんはどうご覧になりますか。アメリカ、欧州、日本の中央銀行がみんなで金融緩和してバランスシートを拡大してきて、まずFRB(米連邦準備理事会)が出口に向かってテーパリング(買い入れ額の縮小)や利上げでバランスシート圧縮に乗り出し、ECB(欧州中央銀行)もそれに続く政策をアナウンスしました。最後に残った日本がババを引くとも言われています。

小幡績(おばた・せき)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
1992年東京大学経済学部卒業、大蔵省(現財務省)入省、1999年退職。2000年IMF、2001年~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2001年Ph.D.(経済学)(ハーバード大学)取得。著書に、『ネット株の心理学』(毎日コミュニケーションズ, 2006)『すべての経済はバブルに通じる』(光文社, 2008)など。

小幡績さん(以下、小幡) 最悪の展開ですよ。異次元緩和に踏み切るときから、僕は言ってきてるんですよ。おそらくFRBも逃げ切れないと思ってたんだけど、なんとか逃げ切り体制に入った。ECBも逃げ切れるかわからないけど、とりあえず出口には向かってる。日本はもともと量的緩和を拡大する理由が乏しかったのに株価にショックを与えるためにロジカルな理由もなく異常な大規模緩和をしたから、始めた理由もなかったぶん止める理由もない。物価上昇率2%という無理かつ意味のない目標を設定してしまって、有害無益な大規模な量的緩和を永遠に続けることになった。

柴山 とはいえ、そろそろ撤退していかないとまずくないですか。

小幡 最初からまずい。タイミング的にも、株価も下がってきて、政治的どころか、経済界、市場からも圧力がかかり撤退できなくなった。僕は大規模緩和には基本的に反対ですけど、百歩譲って2013年の緩和は意味があった。株価へのショック療法という意味では。しかし、2014年の第2弾は明らかにバブルを作ってマイナスだった。第3弾とも呼べるマイナス金利導入は、誰がどう見ても最悪の政策でしょう。2発目、3発目はただちに止めないといけないが、それができない。

柴山 このままFRBが逃げ切って、ECBがなんとかソフトランディングしたとき、日銀が今のバランスシートのままだったら、次の景気後退局面で何が起こるでしょうか。

小幡 何もできないでしょう。一番のゆがみは、国債を無駄に買っていることですよね。国民の金融資産が1800兆円あるから財政破綻はしない、などとのんきなことを言っているが、財政破綻しなくても、本来はリターンが得られる資産で1800兆円を運用していれば、日本国民の資産は倍増していたはずです。国民は間接的に日銀経由で国債を買わされて、その資金はリターンを生まない社会保障費だとか政府の消費部門で使ってしまっている。

柴山和久(しばやま・かずひさ)
ウェルスナビ株式会社代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

 この結果、実体経済の成長力が落ちてしまった。投資不足ということです。だから日本の低成長は国債のせいなんです。さらに、日銀が出口に向かえば、国債を買うのをやめることになり、マーケットに国債の買い手がいなくなって、突然国債を発行できなくなり、借り換えも新発もできなる。日本政府は一種のデフォルト状態に陥るでしょう。

柴山 利払いだけで数十兆円にのぼりますよね。

小幡 自分なりのシナリオを言えば、当面はモラトリアムにして、日銀の保有分はとりあえず返さず、デフォルトでなくいわゆる「リスケ」、無期限延期措置をとって無期限国債とする。利払いも停止するか払うかは選択肢があるけど、新規借り入れはできないから、歳出は税収の範囲内で行う。この緊縮政府財政で、メドが立てば利子の支払いを再開して、元本も少しずつ返していく。民間の銀行の保有分の国債は、簿価か妥当な価格で日銀が全部買い上げて救済する。

国債が暴落したり、デフォルトしたりしても、日銀が損するだけだからいいという説は100%間違いで、日銀以外に誰も国債を買わなくなれば国債発行はできなくなるし、それを無理に日銀に直接引き受けさせれば、日本でもっとも重要な資産である、「円」への信頼がなくなり、日本経済は終わってしまいます。

ハイパーインフレになったときの対策とは

柴山 そのときはハイパーインフレになりますよね。

小幡 そうだね。学術上の定義ではハイパーインフレだけど、「物価狂乱」というよりは誰もマネーを信用しない状況だから、物価が上がるというよりマネーが大暴落するということで、日銀券では何も買えなくなり物々交換が細々と行われ、国民資産の実質価値が失われ、大停滞経済となるでしょう。

柴山 なるほど。新発債が発行できないとなると、財政削減も必須ですけど、削減できる歳出もほとんどないですよね。

一時的にさまざまな支払いを停止するしかない、と小幡さん

小幡 だから、一時的に様々な支払いを停止するしかない。税収がたとえば60兆円だとすると、100兆円の支出をしているから40兆円は減らさないといけないでしょ。まず、利払いを停止すると10兆円弱減るよね。年金を含む公的社会福祉を10兆円カットする。年金は多くもらっている人は総額カットと一部支払い繰り延べでしょう。あとは地方も含めて公務員のボーナス先送りとか。

柴山 公務員の給料を30%削減したらどうなるかという試算を見ても、歳出削減額は2.6兆円と、インパクトは大きくありませんよ。(※『財政破綻後』(日本経済新聞社)第2章「財政破綻時のトリアージ」より引用)

小幡 防衛や消防士とか、地方公務員を全部入れても?

柴山 そこはライフラインだから入っていません。国民生活がもたないです。

小幡 でも、年金支給もライフラインじゃないですか。

 僕らが財務省に入るよりずっと前から、つまり消費税を導入するずっと前から財政破たんするすると言われてきて、30年破たんしなかった。だから、財政破綻というのは財務省の脅しだ、狼少年だ、と言っている人もいるけど、これまで破綻していないということは、これから破綻するということ。30年前に比べれば、消費税率が10%になって税収が20兆円も増えたのに、国債残高は急増して、より破綻懸念は強まっているのだから、年々危機的状況は深刻化していると言える。

GPIFが受けるダメージも大きい、と柴山さん

柴山 そうしたら、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も大変ですよね。GPIFのポートフォリオで、日本株は25%、日本国債が30%ぐらいだから、年金を払う原資もすごいダメージを受けます。

小幡 昔、NIRA(総合研究開発機構)で財政の持続可能性の研究プロジェクトがあったとき、自分は、国債の利回りが2%上昇したら、銀行セクターがどのぐらい資本を毀損するか試算したことがあります。でも、国債暴落だけで、銀行システムや市場が崩壊するわけではないですよね。その試算では10兆円の資本毀損となったので、10兆円資本注入で銀行を救済すれば、システム破綻は防げることになる。

柴山 資本注入するといっても、国債を発行するだけですよね。

小幡 そうなんだけど、一番のポイントは国債が多少暴落しても、日銀券さえ、中央銀行さえ、信頼を失わなければ何とかなるということなんだ。

柴山 なるほど。逆に言うと、何が起きても中央銀行さえ大丈夫なら何とかなるということですか。

小幡 そうそう。中央銀行の信頼がなくなると手段が取れなくなる。つまり、中央銀行を壊して財政を守っても意味がない。中央銀行の信頼があるうちに財政破たんさせて緊縮に目覚めさせたほうがいい、と自分は考えてます。金利が0%から2%に上がったとしても財政自体はすぐ痛まないんだよね。別に1000兆円分の金利が全部2%になって20兆円が増えるわけではなくて、10年以上かけてシフトするわけで。もちろん、すぐ入札に応じてくれなくなるから、本当は財政は行き詰まるし、変な対策をとるとパニックになってデフォルト騒動が起きて、株価が先に大暴落するということも考えられるけど。欧州危機のときも、ドイツに不安がなくてもイタリアや欧州全体が不安だとドイツ国債を様子見して誰も買わなくなった。ああいうふうになりかねない。

柴山 ありがとうございました。アベノミクスの3本の矢だった「金融政策」「財政政策」「成長戦略」のうち、1本目の矢を放つだけではリスクが高いということがよくわかりました。毛利元就の「三矢の教え」にも、1本に頼らず3本を結束させることが重要だとありましたが、3本とも重要だということですね。