平成時代が終わり、令和時代が幕を開ける。同時に働き方改革関連法が施行され、日本人の働き方も新しい時代を迎えそうだ。とはいえ、景気が回復したとは言い難く、明るい話題ばかりではない。「何をしたいのかわからない」と悩む就活生も、「このまま今の会社にいていいのか」と悩む社会人も少なくないだろう。
 そんな悩みを解決する本が、ダイヤモンド社より刊行された。『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』である。倒産確実と言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を、わずか数年で世界第四位のテーマパークにまで導いた稀代のマーケター・森岡毅氏の著書である。
 森岡氏は、自分自身のキャリア構築にマーケティングの手法を取り入れることで成功してきたという。そのノウハウを巣立ちゆく我が子のために書きためていた。そんな「森岡家の虎の巻」が惜しげもなく公開される。
 子の成功を願う親の想いで綴られた、マーケティングの手法で論理的にキャリアの構築法を説いた前半、そして逆境に追い込まれ、ヒリヒリする痛みの中でどのように失敗や不安と向き合ってきたかを語る後半。右脳と左脳を激しく揺さぶられるような、ダイヤモンド社が自信をもってお届けする10年に1冊の傑作ビジネス書である。
 本連載では、森岡氏の実戦に基づく独自のキャリア構築法をうかがっていく。どうやって自分に合った仕事を見つけるのか、どうやって能力を伸ばしていくのか、悩める就活生や社会人はぜひ参考にしていただきたい。
 第2回のインタビューでは、自分をブランディングするために描く「ブランドエクイティピラミッド」について聞いていきたい。

自分を「ブランド」にする技術森岡毅インタビュー[2]

なりたい自分を
デザインするノウハウ

――自分をブランディングするために描く「ブランド・エクイティ・ピラミッド」というものが本書『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』には出てきます。これはマーケティングの手法を自分自身のキャリア形成に落とし込んだものということですが、森岡さんが考えられたんですか。

森岡 あれはですね、元はP&Gのなかにあったブランディングのモジュールです。それを私がもっと使いやすいように手を加えてきたものです。ブランド構築のカギとなる“ブレないイメージ戦略”を図式化して考えるんですね。三角形の一番上から、WHO(誰に?)、WHAT(何を?)、HOW(どうやって?)という3つの項目に大きく分かれていて、そのピラミッド全体が天井にあるブランドがプレイする戦場(マーケット:市場)に突き刺さっている構図になっています。

 私が校長をやっていたP&Gアカデミーのなかで作ったモデルですが、私はそれをマーケティングがわかっていない人にも使えるように改造したんです。なぜならば、P&Gはマーケティングが普及しているので簡略化したモデルでも話ができたんですが、マーケティングを知らない人にはわからないからです。だから、誰が見ても間違いようがないフォーマットに改造しました。本当にブランドを作るときにはすごく必要なものなんですよ。私が、今のクライアントさんのビジネスをターンアラウンドさせるときに最初にやるのもそのブランドの設計です。

――商品のブランディングを自分自身のマーケティングにも落とし込もうという発想はどこから来たんでしょうか。

森岡 エクイティピラミッドで自分をブランディングしようというのは私の発想です。たぶん他の人はあまりそんなことは考えなかったと思うんですよ。なぜならば、今から20年ぐらい前は、普通の人は会社のなかで頑張っていたら会社が認めてくれる世の中でしたから。でも私の場合、世間と相場がずれていたんです。私が頑張ったら、なぜかすごく困る人が出てくるんですよ。私が頑張ることは誰かの既得権を潰すんですね。困る人が出てくるので、必ず敵が増えていく。

 P&Gに入って、このブランドの業績を上げるとなったときに、普通だったらある程度みんなと折り合いをつけながら、不必要なハレーションを起こさないようにやるじゃないですか。でも私は必死で、働かない人は許せなかったので。緩い人も、鈍い人も、遅い人も許せなかったので、ものすごく人とぶつかるわけですよ。だから敵がどんどん増えていく。でも、私は結果を出したいだけなんですね。不必要に人に嫌われたいとか、喧嘩したいとか思っているわけじゃないんです。だからそういう摩擦が面倒くさいなと思って。この問題を消化するためには、やはり対人関係のコストを大幅に下げるためのストラテジーがいると思いました。

 そのときの私は、いろいろきついことをいうけど、ついて行ったら必ず結果を出すやつって思ってもらいたかったんですよ。そこで「実は、森岡はこういう良いところもあるから、多少の欠点は大目に見ようと思ってもらう作戦」として、周囲の頭の中に構築すべきイメージを戦略的にデザインし、使いやすいフォーマットに落としたのがまさにあのエクイティピラミッドですよ。

 結果的に、気が楽になりましたね。このイメージで一定の行動をすればいいんだと。誰に対しても、Aさん、Bさん、Cさんで基本的に態度を変えないんですよ。変えなくてもすむために自分のイメージを一定にして周りに慣れてもらうためにやったんです。最初は周囲との摩擦を減らすためにやったのであって、あれでキャリアを創れると思っていたわけじゃないんですよ。でも思った以上にキャリアそのものに役に立った。全然状況が違ってきました。

参考記事

成功者とは、好きなことの発見者である
森岡毅インタビュー[1]