グローバル企業で通用
しない日本人問題

――すごく科学的な実験なのに、「道徳」で怒られてしまう。ある意味とても日本的ですね。

森岡 三つ子の魂百までって言いますけど、やっぱり傾向は変わらないですよね。よく喋る子どもは大人になってもお喋べりですし。逆は逆だし。自分の傾向みたいなものを知るための方法とか、そういうモジュールみたいなものを使いこなして自分自身をよりよく知るための努力をしようという習慣が、欧米に比べると、日本人はあまりないわけですよ。個の覚醒がすごく遅れている。集団のなかでよい人であるためにはどうしたらいいかという道徳律で縛られる。それが決して悪いと私は思わない。それが日本のいいところでもあるんです。でもそれゆえに、自由競争社会のなかで個人の競争という文脈におかれると、日本人は個としての自覚が弱いので不利ですよね。P&Gのなかでも、多くのグローバル企業でもずっと言われていましたけど、一般論として日本人ってグローバル環境で本当に使えないんですよ。

――そうなんですか。

森岡 グローバル企業に入ったら、日本人は日本のマーケットのことはよくできるけど、全員が集まる会議の中で発言できないんですね。国際会議で一番難しいのは、インド人を黙らせることと、日本人を喋べらせることだって言うじゃないですか。そこでリーダーシップがとれないんですよ。あくまでも一般論なので個人に当てはめ過ぎないで頂きたいですが、お国柄による生育環境の違いはやはり大きいと思いますよ。もうインド人は、100人ぐらいいるクラスのなかからスピークアップすることを運命づけられて育った人間がP&Gに入ってくるでしょ。そういう人間と、頑張ったら誰かが見てくれるものだと思って大学まで出た日本人は勝負にならないわけですよ。インド人もそうだし、中国人もそうだし。比較的日本人と同じように弱いのは韓国人ですね。台湾人は、そんなに弱くないかな。アメリカ人も自己主張が激しいですね。あとユダヤ人は言動がシャープですね。そういう連中と比べてみて、日本人は勝負できないんですよね。私は日本人のなかでは壊れたダンプカーのようにアグレッシブで、結構そこでの削りあいとか、会議のなかでの討論とかには強かったのでアメリカ本社に送り込まれたんだと思うんですけど。

 アメリカに行ったときにびっくりしたんです。私がブランドマネジャーやっていたときに、新入社員が入ってきたんですね。そしたら、初めのミーティングで、その新人がなんて言ったか。名前を言った次に、私は何をデリバーすればブランドマネジャーになれるんだって言ったんですよ。これがアメリカ人ですよ。面食らいましたね。日本ではそんなこと言われたことなかった。「私、新人です、右も左も分からないんですけど、よろしくお願いします」って日本人は言うじゃないですか。異常な新人なのかと思って周りに聞いてみたら、当たり前だよって言うわけです。この違いわかります? 明確なんですよ、自分が欲しいものが。何を取りにこの会社に入って、いつまでに何をしなくちゃいけないかっていうことがクリアなので、無駄なことを一切しない、そこにフォーカスしてくるんですよ。で、私が欲しいものをゲットするためにあなたは私をサポートしてくれと。私はあなたのために働くから、OK?と言うわけですよ。ギブアンドテイクだぞって。すごいでしょ。新人ですよ。頭もいいけど、肝っ玉も強いわけですよ。

 それぐらい差がある。日本人は会社に入りました、それで自分は何者かとか、何がしたいのかとか、そういうときはちゃんと自分を出さないととか、会議で黙ってたらアホだと思われるんだなとか学んでいるうちに、完全にあいつはダメだとバッテンをつけられるんです。日本以外で使い物にならない日本人問題って、グローバル企業ではみんな共通の問題ですよ。これは日本の教育の問題だと。日本の学校教育では、国際社会でスタートラインからいきなり普通に踏み出せる人間が育てられてない。沈黙は金ではなくて、沈黙はStupidなんですね。Nothingというか、Emptyというか。

 私もだからP&Gに入ったとき、大丈夫かなと思いましたけどね。最初、ファイナンスで内定もらったんですよ。実は、最終面接を受けたのファイナンスなんです。ファイナンスの人から、あなたはキャラクターがあまりにも立ちすぎているので、マーケティングのほうが向いているかもわからない。ファイナンスとして内定は出すけども、マーケティングの方も一度話を聞いてもらえないかと言われて、別日を設定されたんです。で、ファイナンスとマーケティング、どっちに来たいのって聞かれて、社長に近いのはどっちですかって私は聞いたんですよ。勘違いも甚だしいでしょ。そしたら、マーケティングの人がね、ファイナンスのことを悪く言うつもりは全くないけども、歴代の社長は全員マーケティング出身者ですと。じゃあ、マーケティングに行きますと。ひどい学生だったんですよ(笑)。

――さっきのアメリカ人と変わらないですね(笑)。

森岡 今気づきました。あまり変わらないですね(笑)。ひどいですね。自信満々だったんですよ。それで会社に入ったらえらいことになったわけですよ。やばい、俺って全然できないじゃんと(笑)。そうか、確かにこれ苦手だった、やばいとこに入っちゃったなと……。5つのなかで一番かわいいオプションは何ですかと聞かれて、これが絶対いいと思いますと言うと、消費者テストで必ず一番ダメなんですよ。消費者と私の思考は真逆だってことに気づいたんですよね。苦労しました。周りから責め立てられて。そのあたりは本書『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』に書いたんですけど。

 でも、真面目な話、突然自信満々になり、突然自信が崩壊し、また自信をためて、また自信が崩壊し。この自信貯金と自信破産、二つを順番に繰り返して私は成長していったような気がします。いい頃合いで大失敗して、ちゃんと自信が崩壊するんですね。そうすると世界がもっと新鮮に見えてくる。新たな成長が始まる。だから失敗することは悪くない、挑戦することも恐れない。その傾向自体は昔とあまり変わっていないと思いますね。