経営再建を引き寄せた4つの策

 赤字を垂れ流していた日本レーザーを再建するには、財務体質の改善が急務でした。

 私が掲げた改善秘策は次の「4つ」です。

1.全従業員の雇用を守る
2.人事評価制度を刷新し、従業員の既得権に切り込む
3.売上とともに粗利益を重視する
4.新規顧客を開拓する

1.全従業員の雇用を守る
 前述したように、日本電子時代の私の仕事をひと言で表すと、「雇用を犠牲にして企業の存続を図ること」です。

 労働組合の執行委員長として、国内で1000人以上のリストラに関わり、渡米したあとも、ニュージャージー支社の閉鎖やボストンアメリカ法人本社でのダウンサイジングなど、100人以上のアメリカ人の雇用を犠牲にしてきました。

 やむをえなかったとはいえ、多くの人たちが会社を去っていった事実は、今も消えることのない心の痛みとして、私の記憶の中に残っています。

 だからこそ私は、企業再建を経験する中で、

・「安定的な雇用確保こそ、経営者の役割である」
・「雇用を守ることが、結果的に会社を守ることになる」
・「人間こそが企業の成長の原動力である」

 という考えに至りました。
 会社を再建するうえで、最も必要なのは、社員のモチベーションです。

 そして、社員のモチベーションの安定と向上には、「雇用不安を解消する」ことが最善の策です。

 そこで私は、

「私の方針に賛同できなければ辞めてもらってもかまわない。
 しかし、私が社長である限り、絶対に解雇はしない。
 生涯雇用が私の理念だ」

 と宣言しました。

「雇用を守れない企業は、社会的に存在意義がない」

 今でもその考えは変わりません。

2.人事評価制度を刷新し、従業員の既得権に切り込む
 それまでの日本レーザーの人事制度は、親会社と同様の日本的雇用制度でした。

 すなわち、親会社/子会社、日本人/外国人、正社員/非正規社員、男性/女性等の「身分」に基づく日本的雇用制度です。多くの企業が現在も日本的雇用制度を採用しています。

 しかし、この制度では、当社のように小さくともグローバル事業を担う人財を活用できません。
 そこで私は、自分が親会社でつくったすべての人事制度の破壊と革新を行いました。

 家族手当や住宅手当、定期昇給を廃止するなど、従業員の「既得権」に切り込んだのです。
 同時に、年功序列型の退職金制度を刷新し、給与や賞与についても、実績に連動する仕組みに変えました(ただし、本給のカットや降格人事はしない仕組み)。

 人事評価制度の考え方は、次の「3つ」です(人事評価制度の詳細は、拙著『社員を「大切にする」から黒字になる。「甘い」から赤字になる』をご覧ください)。

・能力主義……仕事に必要な基本的な能力と、各職種に必要な実務能力を評価
・業績主義……数字で見える成果(受注額や粗利益額など)と、その数字を上げるための努力を評価
・理念主義……当社の人財としてふさわしい行動をしているか否かを評価

3.売上とともに粗利益を重視する
 財務体質を改善するため、売上主義を改めて、粗利益重視の管理体制に転換しました。
 売上実績を評価基準にすると、営業員は「値引き」に頼ってしまいがちです。

 メーカーの場合は、値引きをしても売上が上がれば(受注が増えれば)、工場の稼働率は上がります。
 そして、工場の稼働率が上がれば原価率が下がるので、利益が残ります。

 安倍首相が提言した「同一労働同一賃金」は、この「身分制度」を徹底的に破壊しない限り実現できません。
 その先は、「徹底した成果主義」と「金銭補償解雇制度」の導入になります。

 解雇をしやすくするこうした制度を防ぐには、当社で試行錯誤して到達した“進化した日本的経営”しかありえません。

 日本レーザーでは、すでに「身分制度」を廃止しました。
 そのうえで、誰にとってもセーフティネットである「生涯雇用」を進めており、実力と貢献度に基づく人事制度を実現しました。労働組合が本音では「同一労働同一賃金」に反対するのは、「正社員優遇」という「身分制度」を維持したいからです。

 これを打破するには、経営者も血みどろの取り組みを覚悟しなければなりません。

 日本レーザーはレーザー専門の輸入商社ですから、そもそも粗利益率は高くありません。

 安易な値引きで売上を確保しても、粗利益率が低くなれば、崖に向かって突っ走っているのと同じです。

 経費以上の粗利益を稼がなければ、赤字はいつまで経っても改善されません。

4.新規顧客を開拓する
 海外メーカーが製造したレーザーを輸入して、日本企業や大学、官公庁、研究機関に販売するのが、レーザー専門の輸入商社の基本的なビジネスモデルです。

 ですが、契約が一方的に切られてしまうことがあるため、既存顧客のみに依存するのは、リスクが高い。
 したがって、新規顧客の開拓は不可欠です。

 日本レーザーは自社品(自社製開発のカスタム品)を提供できる技術力を有していたため、同業他社と一線を画した新規顧客開拓が可能でした。

 1994年には、大手光学機器メーカーから大型案件(自社製品の光ディスクマスタリング装置)を獲得します。

 受注額は2億2000万円で、自社製品のため粗利益額は1億円以上。
 この契約がなかったら、黒字化への道筋は見えなかったでしょう。