台湾の地元に根付く生活習慣も脅かされた。台北市内に在住する女性は、賑わいとともにもたらされた“弊害”をこう振り返る。

「台湾の飲食店は人数分の注文をしなくてもよく、『2人で1人前』という消費に寛容でした。それを逆手に取ったのか、私は5人の大陸の観光客がフードコートで席を取り、たった1つのかき氷を回しながら食べる姿を目撃しました。10人の団体客がたった1つのカキオムレツしか注文しない“1つの皿に割り箸10本”が台湾で大きな話題になったこともあります」

 台湾の面積は3万5980平方キロメートルで、ほぼ九州の面積に近い。そこに年間400万人の大陸の観光客が訪れれば、市民生活もダメージなしでは済まされない。

 新幹線の停車駅には「切符に書かれた座席に座りましょう」という掲示物があったり、車内では「低い声で話しましょう」という注意喚起のアナウンスが流れたりするのも、狭い台湾に400万人がどっと押し寄せた当時の名残なのかもしれない。

観光消費が落ち込む台湾のインバウンド

 筆者は佐営駅から地下鉄に乗り、高雄市の中心部に移動した。向かったのは新光三越の高雄三多店である。1階には化粧品売り場が広がっているが、土曜日の午後だというのに、買い物客の姿はほとんどなかった。

人の姿が見当たらない化粧品売り場
消費者の姿が見当たらない化粧品売り場 Photo by K.H.

 三越の化粧品売り場といえば、東京・銀座では今、インバウンド客を集め最も賑わいを見せる売り場のひとつだが、高雄三多店はそれとはあまりに対照的だった。高雄在住の女性に尋ねると、「数年前は、化粧品売り場で買い物をする大陸からの観光客で、連日にぎわっていた」と語る。

 波が去ったのは百貨店だけではない。市内では「ホテルすら売りに出されている」(別の高雄市民)。もとより高雄は観光地が少ないため、観光業には不向きな土地柄だったが、ここ数年で高雄の観光関連産業はガタ落ちだという。

 だが、台湾は東南アジアに活路を見出した。タイからの訪台客は2016年に19.5万人だったが、2018年には32万人に、またベトナムからの訪台客は19.6万人から49万人に増えた。日本からの訪台客も約189万人から約196万人に増えた。訪台客を総合すれば、2016年の1069万人から2018年は1106万人と、2年間で37万人増(3.4%増)となっている。

 一方で、消費は落ち込んだままだ。訪台客の平均消費額は、ピーク時の2015年に1378米ドルを数えたが、2017年には1147米ドルに下落した。大陸の観光客が観光消費に貢献していたのは明らかだ(数字は交通部観光局)。