実は終身雇用は
単なるスローガン

 内閣府の「日本経済2017-2018」で、学校卒業後に就職して会社に定年まで勤める、いわゆる「一企業キャリア」を歩む人がどれほどいるかを以下のように紹介している。

《就業経験のある男性の79%は初職が正規であるが、そのうち一度も退職することなく「終身雇用」パスを歩んでいる男性(退職回数0回)は、30代で48%、40代で38%、50代で34%である》

《正規で入職した女性のうち、「終身雇用」パスを歩んでいるのは50代で7%程度でしかなく、労働市場から退出した割合も高い》

 50代まで1つの会社に勤め上げる日本人は大企業などのほんの一握りで、大多数は他の先進国の労働者と同様に、「定年まで雇ってくれる会社」という理想郷を追い求めながら、自助努力で転職を重ねているのが現実なのだ。つまり、9割近い日本人がもてはやす「終身雇用」だが、実は大多数の人は享受することはない制度であって、スローガンのようなものなのだ。

 この傾向はバブル期もそんなに変わっていないし、それ以前も然りである。松下幸之助だ、大家族主義だという一部大企業の特徴的な雇用制度が、マスコミで喧伝されるうちに1人歩きして、何やら日本社会全体の代名詞のようにミスリードされてしまっただけの話なのだ。

 もっと言ってしまうと、これは日本人の発明ではない。

 終身雇用のルーツは大正あたりだといわれているが、今のような完成形に近づいたのは、1938年に制定された「国家総動員法」である。その前後の「会社利益配当及資金融通令」や「会社経理統制令」で株主や役員の力が剥奪され、とにかく生産力を上げるために企業という共同体に国民を縛り付けておくひとつの手段として、終身雇用も始まった。

 では、これは日本オリジナルの発想かというと、そうではない。ソ連の計画経済をドイツ経由でまんまパクったものだ。国が経済発展を計画的に進める中、国民は国が規制をする企業に身を投じて一生涯、同じ仕事をする、というソ連モデルを、時の日本の権力者たちが採用した。それが、集団主義が大好きな日本人にピタッとハマったのである。

 要するに、「終身雇用」は日本式経営でもなんでもなく、単に戦時体制時に導入した社会主義的システムをいまだにズルズルとひきずっているだけなのだ。そして、実際には形骸化している終身雇用に安心感を持ち、低賃金も喜んで受け入れてきた、というのが日本人の正しい姿なのである。

 よく最近の日本は右傾化しているという指摘があるが、先ほど紹介したように、最近の若者は死ぬまで雇われたいという思いが年々強くなっている。愛国だ、日本は世界一と叫びながら、経済に対する考え方はどんどん左傾化しているのだ。

「最も成功した社会主義」なんて揶揄される日本が、果たして終身雇用という、実態から乖離したイデオロギーから脱却できるのか。注目したい。