未来志向の肯定的な最適解を見つけ出す
実社会では、数学の試験問題のように、正解を1つに絞れないケースが多い。
そこで正解を見つけ出すのに役立つのも、哲学の学びを通じて磨かれた考える力である。
ある商品が売れないというマーケティング上の課題に直面し、「その理由は何かを考えろ」と上司から指示を受けたとしよう。
そこでなぜ売れないかという理由を考えるだけでは足りない。
聞かれたことには答えているから、学校の宿題なら及第点がもらえる。
しかし、ビジネスの世界では、聞かれたことに答えるだけでは落第なのだ。
なぜ売れないのかという問題の核心を見極め、それを踏まえてどうすれば売れるようになるかの最適解を導き出し、上司に斬新な提案ができて初めて正解といえる。
売れない理由を導き出すだけなら、コンピュータで過去のマーケティングのケーススタディをたくさん集めれば済む。
それはAIが何よりも得意とする分野だ。
AIとコンピュータは過去を振り返って「~してはいけない」という否定的な答えを導き出すのは得意だが、これから先に「~すればいい」という未来志向で肯定的な答えを出すのは不得意である。
未来志向で肯定的な答えを導き出すのは、世の中に存在していなかった最適解を見つけるクリエイティブな作業である。
誰も考えなかったことを考えなくてはならない。
しかも「~すればいい」という正解は、1つに絞れないのが普通である。
そこで活きてくるのが、哲学を通して学んだ考える力であり、洞察力なのである。
AIとコンピュータが集約した過去のケーススタディでピラミッドの土台を作り、その天辺に人間が洞察した正解をのせる。
現在、AIと人間は、そういうスタイルで協業している。
この先AIが進歩すれば、土台作りから天辺に正解をのせるところまで、すべてをこなす時代がやってくる。
少なくともそれまでは、哲学を学んだビジネスパーソンとAIの協業がベストマッチングなのである。
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「教養」とは何かを知ることが
ビジネス成功の秘訣になる。
【著者からのメッセージ】
人生には大切なものが2つある。
1つは「友人」である。
趣味・嗜好が合い、何事も胸襟を開いて忌憚なく語り合える友人は、人生を豊かにしてくれる宝物だ。私にとっては財務相などを務めた故・与謝野馨さん、音楽家の三枝成章さんがそうであり、ヒロセ電気の社長だった故・酒井秀樹さんがそうだった。
利害損得を考えないで付き合える友人が何人いるか。
それは、その人間の懐の深さと器の大きさを反映している。
ネット社会には数々の問題点が指摘されているが、一方で共通の趣味を持つ人を見つけやすくなったのは、見逃せないメリットだ。
もう1つ大切なのは、「学習歴」である。
学歴という言葉があるが、この「学」と「歴」の間に「習」を入れると、「学習歴」という言葉になる。
私は学歴を信じていない。
それは、次のような経験があるからだ。
私が創業したドリームインキュベータでは、毎年数人の新卒採用枠に数千人ものエントリーがある。
いまは現場を退いているが、かつては私も入社希望者に面接をしていた時期があった。
面接では、世間的には名の通った名門高校から名門大学に進み、学歴は申し分なくても、「大学4年間で一体何を学んできたのか?」と問いたくなるような魅力のない人間に大勢出会ってきた。
東大卒、京大卒、ハーバード大卒といった最終学歴がどんなに立派でも、学んで習う習慣を持たない者は伸びない、魅力がない。
本来は「学歴≒学習歴」なのだ。
しかし、有名大学に入るだけで満足してしまい、学びを得ないままで卒業した人間は学習歴に乏しい。
感性も知性も人生でもっともみずみずしく、人間としてもっとも成長できる時期に、自分に何も投資しないのは極めて愚かな選択である。
学歴の代わりに私が信じているものこそ、何を学んできたかという学習歴だ。
たとえ学歴がないとしても、学習歴が豊かな人は人格的にも優れているし、学んで習うという習慣を忘れないから、ビジネスパーソンとしてだけでなく、1人の人間として成長し続ける。
その学習歴を作ってくれる手段が、読書なのである。
さきほど触れた酒井さんは、多極コネクターで業績を上げて、ヒロセ電気を売上高経常利益率が3割という超優良企業に育て上げた中興の祖である。
彼は東京都立港工業高校の出身で、大学は出ていない。
エンジニアとして極めて優秀だった。
それに甘んじることなく、読書で経営感覚を徹底的に磨いた。
学歴を学習歴が凌駕した好例である。
自分には自慢できる学歴がないと思っている人も多いだろう。
しかし、そんなことを思っている暇があったら、寸暇を惜しみ、せっせと読書に励むべきだ。
読書で学習歴を積み上げられたら、学歴は気にしなくていい。
学歴は一流、超一流へと近づく方法ではない。
読書で教養を磨き、洞察力を高めるのが超一流への近道なのである。
若いときから読書習慣をつけるのが理想だが、読書に年齢の壁はない。
何歳から読書に目覚めても遅いという話にはならない。
大学を卒業してビジネスパーソンになってから、もう一度大学に入り直して学歴を更新するという方法もある。
日本では大学は学生だけが行くところだが、欧米では社会人が大学で学び直して、再び社会に戻るケースは珍しくない。
社会人が就労に活かすために学び直す「リカレント教育」が日本でもようやく注目されるようになってきた。
しかし、まだまだ学び直したい社会人を受け入れる土壌が整っているとは言い難い。
ならば、学び直して学歴を更新するのではなく、読書で学習歴と高めるという選択肢を選ぶほうが賢明である。
心から共感できる友人がいて、その友人と読書と介した学習歴を高め合う関係を築けるのが理想である。
私にとって三枝成彰さんは、いまでもそういう得難い存在だ。
読者の皆さんにも、これから生涯に渡って読書によって学習歴を高め、豊かな人生を歩んでもらいたい。
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<目次>
第1章 二流から一流へ成長する読書術
第2章 AI時代を生き抜くための読書術
第3章 ほしいと思われる人材になる読書術
第4章 読書力を引き上げるコツ
第5章 読書こそが私という人間を作ってくれた