未だに誰も実態を捉えられない
得体の知れない形にならないもの

 自律神経失調症は鬱病とよく似た症状を示します。そもそも精神科の領域を定義することは医学のなかでも特に難しく、解明しがたい領域です。その証拠に、アメリカ精神医学協会の基準の中においても、精神病に対する概念がたびたび変わり、それに伴い病名もがらりと変化してしまいます。つまり、未だに誰も実態を的確に捉えることができない領域なのです。

 哲学の中に「形而上学」という概念があります。「得体の知れないもの」、「形にならないもの」ということです。はるか昔、ギリシャ時代から現代に至るまで話題にはするものの、だれも納得のいく記述はできないままです。精神科の世界も、これに近いものだと言えるでしょう。

 精神科も形而上学も、「系統づけようとした瞬間に、意味をなさなくなってしまうけれど、なにか存在することはたしかである」というものだと言えます。同様に自律神経失調症について考えれば、「病気を見つけようとしても見つからないが、症状があるから何かある」と言い換えてよいでしょう。

「寝起き」「緊張時」の症状は
自律神経の変化が引き起こしている

 さて、話を自律神経失調症に戻しましょう。

 まず、自律神経とはいかなるものかを解説します。

 自律神経は交感神経と副交感神経により成り立っています。食事、睡眠、感情といった本能に関係するもので、自分の意志で自由にコントロールできるものではありません。自律神経以外の、たとえば運動神経の作用は自分の意志が関係します。そのおかげで思い通りに体を動かすことができます。

 交感神経と副交感神経はほぼ反対の作用をしますが、通常は両方のバランスがある程度とれています。ただし、覚醒しているときは交感神経がやや優勢で、睡眠しているときは副交感神経がやや優勢です。寝起きの時や感情が不安定になったとき一瞬バランスを崩すので、その時に体の症状として、実際に神経のバランスの不具合が感じられます。

 例えば、寝起きのとき、風邪を引いたわけでもないのに鼻水がでることがあるでしょう。それは副交感神経が一瞬優位になる時間があるからだと言えます。また、胃腸の痛みを感じることもあるでしょう。これも副交感神経が優勢になったとき消化管の動きを起こすからです。

 他にも、緊張したときに動悸がするのは交感神経が優勢だからです。感情で顔が赤くなったり汗が出たりするのも、同様の作用です。