米中貿易戦争が「海亀」たちに大きな影響を与えています。米中貿易戦争のあおりを受けて、在米の中国人たちの肩身が狭くなっている。「見えない圧力」を感じる中国には帰りたくないと考える彼らだが、日本も選んでもらえそうにない Photo:AFP/JIJI

米中貿易戦争勃発で
米国の中国人留学生に異変が 

 米中貿易戦争で在米の中国人留学生たちは気まずい状況に追い込まれている。先端技術や知的財産をめぐり、中国出身の教授や研究員に“スパイ”の嫌疑がかけられる中、中国人留学生らもまた、日に日に肩身が狭まりつつあるという。

 近年、中国政府は「海亀」と呼ばれる海外留学経験者に対して、さまざまなインセンティブを掲げ帰国を促している。AI、ビッグデータ、自動運転など新たな領域での産業覇権の掌握をもくろむ中国は、海外から帰国する高度人材の獲得を一層強化しようとしているのだ。米中貿易戦争で苦境に立たされていることもあり、自国の技術力を早急に高める必要にも駆られている。

 今や米国の大学(もしくはカレッジ)における留学生は、3割を中国出身者が占め、その数は36万人に及ぶというが、米中関係の悪化で、在留中国人に対するビザ発給条件が厳しくなっている。今後の就職環境に不確定要素が増すこの状況は、在米の中国人留学生たちの“一斉帰国”を促す可能性もある。果たして彼らは帰国の道を選択するのだろうか。

 ここで紹介するのは、“海亀予備軍”の李君(仮名・23歳)だ。正確には、“海亀予備軍だった李君”としたほうがいいかもしれない。彼はサイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マス(数学)を米国で学んだ、いわゆる“STEM人材”だ。中国で生まれ育った彼は、高校から米国に留学。大学では電子工学を専攻し、昨秋に卒業した。

 卒業後に就職活動を開始するという米国の慣例に基づいて、李君も昨秋から仕事を探し始めた。「世界の多くの若者は中国企業に関心を寄せています」と語る彼も、最初に履歴書を送ったのは米国企業のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)ではなく、中国企業のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)のうちの1社だった。