会議前の意向と異なり
危機対応議論は行われず
米中貿易戦争の悪影響は大きい。IMFは最新の世界経済予測で、19年は成長率が前年比3.3%(18年は同3.6%)に減速するものの、20年は同3.6%に持ち直すとの見通しを示していたが、6月5日には、米中両国の関税合戦が激化した場合、20年の世界成長率を0.5%下押しすると警告を発したばかりだ。
日本時間8日の午前中には、トランプ米大統領が10日から予定していた対メキシコの追加関税発動の先送りを決めたという世界経済にポジティブなニュースが飛び込んできたものの、世界経済全体への懸念としては、米中貿易戦争の影響の方が圧倒的。G20の会議でも、メキシコへの関税先送りのニュースについて発言した国はなかったという。
実は、今回のG20会合で麻生財務相と共同議長を務める日本銀行の黒田東彦総裁は、開幕に先立つ8日昼の記者会見で、議長国として「世界経済の見通しや、何かあった時にどういう対応ができるか」を議論する意向を示していた。「何かがあった時」とはつまり、世界経済の危機時の対応を話し合いたい、という意味だ。
だが、実際はどうだったか。麻生財務相は記者会見で、中国メディアから「貿易問題について議論したことをもう少し詳しく教えてほしい」と問われると、「ここは財務大臣会合で、貿易は基本的に(米国通商代表部=USTRの)ライトハイザー氏や茂木経産相のところでやる」と、原則論ではその通りかもしれないが、にべもない回答。黒田総裁が議論したいと話していた危機対応については、貿易戦争以外のテーマを含めて、各国間で積極的な意見交換には至らなかったようだ。
その上、ムニューシン米財務長官は8日に会場内で記者団に対し、米中の貿易協議については6月28、29日のG20大阪サミットで開かれるトランプ大統領と中国の習近平国家主席の米中首脳会談に委ねる方針を明らかにした。米中両国は経済のみならず、テクノロジーや安全保障にまで及ぶ“覇権争い”を繰り広げている。そんな中、貿易戦争の行方は政治的な目的に基づく米中首脳の「バイ会談(二国間協議)」に委ねられたことになり、G20の財務・金融当局者が直接的な処方箋の議論を交わしにくい面があることは否定できない。