米中貿易戦争に認識のずれ
板挟みの日本は苦渋の調整役
そんなG20財務相・中銀総裁会議は、加盟国の欧米や新興国から財務相や中銀総裁をはじめ、国際機関のIMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)などの関係者らが一堂に会し、主に世界経済について議論を交わす場だ。G20のGDP(国内総生産)は合計で全世界の約8割に上る。
かつて安倍晋三首相は日本銀行総裁に黒田東彦氏を指名する前、選定条件について国会で「国際金融マフィアのサークル内のインナーとなり得る能力も重要」と述べたことがある。そのように、経済界では影響力の大きさから、時に中銀関係者たちは「中銀マフィア」、各国の国際金融担当の事務方トップのインナーサークルは「通貨マフィア」といった俗称で呼ばれてきた。
そうした政策当局者、いわば世界有数の“金融マフィア”たちが一堂に会するだけあって、警備体制も厳戒そのもの。7日現地入りしたある政府関係者は「ここは(北朝鮮の)平壌かと思うぐらい、夜は周辺に警備員しか見当たらなかった」と苦笑したほど。実際、今回の会合では約4700人もの警備員が動員されているという。
そうした中、G20財務相・中銀総裁会議は8日の午後2時過ぎに開幕し、5時半過ぎに初日の議論を終えた。だが、当局関係者の発言を総合すると、とりわけ危機時に政策協調が求められるG20の当局者たちが、世界経済が抱えるリスクへの認識を共有できたとは言い難い。目下、最大の経済リスクである米中貿易戦争について認識のずれが解消されていない様が浮き彫りとなっているからだ。
会議自体は記者団に非公開だが、麻生太郎財務相は終了後の記者会見で、低所得国の債務問題などを議論した後、世界経済情勢にテーマを移したと説明した。また、ある財務省幹部は会議中、「非常に多くの国から貿易摩擦のエスカレーション(激化)に関し、世界経済への大きな下方リスクだと懸念の声が出たのは事実だ」と明かした。
この「非常に多くの国」という表現がポイントだ。裏返せば、米中貿易戦争が世界経済に悪影響を与えるのは当然のようでありながら、それが「全ての国」から出たわけではなかったということ。トランプ大統領という“仕掛け人”がいる米国が、その例外であると示唆したといえそうだ。
一方でこれだけ懸念の声が上がったからには、明日公表される予定の共同声明に、貿易問題について何らかの表現を盛り込まざるを得ない。議長国として板挟み的な立ち位置にある日本の財務省同行筋は、すでに目の下に黒々としたクマをつくりながらも「徹夜で文言を調整します」と繰り返した。