日本は「人口オーナス期」真っ只中
現在、日本で進んでいる社会構造の変化を俯瞰して考えてみましょう。
ご存じのとおり、現在、日本は人口全体に対する若者の比率(生産活動に就いている年齢層の比率)が下がり続け、高齢者の比率が上がり続けています。ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授の言葉を借りて言えば、日本は「人口オーナス期」の真っ只中にあるわけです。
「人口オーナス期」とは、「人口ボーナス期」と対になる言葉です(オーナスとは、重荷や負荷を指します)。
かつて日本が経験した高度経済成長期のように、その国が「若者がたくさんいて、高齢者は少ししかいない」という人口構造である時代を「人口ボーナス期」といいます。このような人口構造は、その国の経済にボーナスを与えてくれます。いわば“おいしい時代”なので、「人口ボーナス期」というわけです。現在、中国、タイ、シンガポールなどが著しい経済成長をとげているのも、それらの国がちょうどいま「人口ボーナス期」にあるからです。
そして、高度経済成長期の日本は、「人口ボーナス期」に完璧に対応した戦略をとることに成功しました。
第一に、男性重視の雇用政策です。労働力はありあまっているうえに、重工業の比率が高く、筋肉を要する仕事が多かったので、男性労働者に最大限に働いてもらうのが最も効率的だったのです。
第二に、長時間労働です。労働力の時間単価が安いうえに、市場に「早く・安く・大量」に商品やサービスを届けた企業がシェアを確保する“国盗り合戦”の時代でしたから、長時間労働をしたほうが絶対に有利でした。
第三に、均一な労働力の育成です。均一な商品・サービスをたくさん供給すればニーズを満たすことができた時代でしたから、「右向け右」というトップダウンのかけ声で、すべての社員が一斉に動く組織のほうが有利です。そのためには、均一な労働力をそろえることが重要だったのです。
一国の経済を「人口ボーナス期」に最適化するためには、この3つの条件が必要だとされていますが、日本ほど、この3つの条件を完璧にそろえた国はなかったといわれるほど、この時期の日本は適切な戦略で戦ったのです。