「トップ」が動けば一気に変わる

 そして、トップがリーダーシップを発揮し始めると、「働き方改革」は一気に加速します。
 ある企業のトップは、「働き方改革」を本格化するにあたって、「浮いた残業代はすべて社員に還元する」と宣言しました。その結果、1年で約30%の残業代の削減に成功。その全額1億8000万円を全社員に還元したのです。

 さらに「ワークスタイル変革表彰」を行い、一定の条件を満たしたチームのメンバーに正社員・派遣社員の区別なく2〜6万円の報奨金を支給。「働き方改革」によって、社員の年収が実に20万円以上も増えたのです。

 忘れてはならないのは、そのトップの発したメッセージです。
「残業代を減らすことが、『働き方改革』の目的ではない。新しい仕事のやり方に変えてほしい。そして明るく健康的に働いてくれることが一番うれしいんだ」

 そして、トップがそれを実践してみせたことで多くの社員の信頼を厚くしたことが、その後、その会社の「働き方改革」を一気に加速させる最大の要因となったのです。

 また、取引先対応のために長時間労働で苦しんでいたある企業では、トップのリーダーシップによって、夜10時から翌朝6時までは社内のサーバにアクセスできないようにしました。

 その結果、現場は「申し訳ないのですが、遅い時間に対応することができなくなりまして……」などと、いい意味で“会社のせい”にしながら、取引先のムリな要望を押し返すことができるようになりました。そして、取引先に「業務フローを見直すことで、お互いに長時間労働を改善しませんか?」と呼びかけることによって、それまで慣例のようになっていた非効率的な業務フローを改革する協議を始めることもできたのです。

 ある保険会社では、「中間共有会」と「最終共有会」に役員全員が出席して、各チームの発表に耳を傾けたうえで表彰をしたのですが、その様子を見ていたトップが、社内の生産性向上のために、自分も経営者としてできる支援をどんどんやろうと考えるようになり、AIへの投資を決めました。

 保険金を支払うときには「10年選手のベテランオペレーター」でも難しいお客様対応が必要なのですが、それをAIに読み込ませることによって、「10年選手」と同じくらいの精度の回答が、わずか10秒で表示される仕組みをつくったのです。

 そのおかげで、新人オペレーターでも、ストレスを感じることなく複雑なお客様対応ができるようになるとともに、お客様の満足度を高めることにも成功。まさに、すべての関係者がWin−Winになる仕組みが出来上がったのです。

 このように、現場での「小さなチャレンジ」が成功することによって、トップの背中を押すことができれば、状況は一気に変わります。そして、そんな企業が増えれば、世の中は大きく変わっていくに違いありません。ぜひ、皆さんの手で、その最初のドミノを倒していただきたいと願っています。