こうした構図を示し、やんわりとトランプ氏に「他国の貿易黒字だけが原因ではなく、米国の財政赤字が貿易赤字や経常赤字の一因でもあるのだから、二国間の貿易交渉にこだわらず、多国間で経常収支の不均衡是正を探りましょう」といったメッセージを送りたいというわけだ。
実際、G20福岡会合では共同声明に「対外収支を評価するにあたっては、サービス貿易・所得収支を含む経常収支のすべての構成要素に着目する要素があることに留意する」といった文言を盛り込むに至り、日本の財務省幹部は満足げだった。
二つ目の「質の高いインフラ投資」では米国と結託し、中国の広域経済圏構想「一帯一路」への牽制を狙う。
中国の「一帯一路」では、インフラ建設に際して新興国に巨額の融資を行い、借り手の対外債務を膨らませる「債務の罠」と呼ばれる外交の方法が問題となっている。スリランカやモルディブ、パキスタンやタジキスタンといった国々では中国からの融資で財政赤字が急膨張してしまっているのだ。
そこで、議題として「質の高いインフラ投資」をあげることで、中国の“略奪的”とさえ呼ばれる外交手腕に圧力をかけようというわけだ。「質の高い」という言葉にはお金を貸す側が相手国である新興国の返済能力に配慮して、債務の持続性を考えよという含意があるのだ。すでに G20福岡会合では「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の承認に至っている。
日本の調整は難航か
最後は「国境を超えるデータ流通の国際ルールづくり」。
すでに安倍晋三首相は今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でこの議題を大阪サミットで議論すると言及し、布石を打った。
表向きには、こんなことが掲げられている。例えば医療や産業関連の有益なデータは、国境に関係なく自由な往来が重要とする一方、知的財産や安全保障上の機密などは慎重に保護する。つまり、データの種類によってルールを決めていこうというわけだ。それは世界経済全体のプラスにもなる。
しかし裏では、やはり中国への対抗心が垣間見える。