売り手市場なのに、損をする売り手企業

 この連載では、「一見ダメな会社でも売れる」という事例を多数紹介する予定です。
 売り手市場のなか、これまでは売却するにはネガティブだと思われていた要素があっても、小さな会社が売れ続けています。

 買い手企業は、常に「いい会社はないか」と探している状態です。売り手とって、「追い風」の状況にあるといっても過言ではありません。
 どんな会社も売れる。自分の会社も売れるかもしれない。期待を持たれた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 ところが、安心できない要素もあります。本来、売り手市場とは売り手企業に有利に働くはずです。
 それなのに、なぜか売り手である中小企業のほうが損をするケースが急増しているのです。それは、いったいなぜなのでしょうか。

知識・情報・経験不足が命取り

 理由は単純です。
 売り手企業にとって「会社を売る」ことは、一生に一度あるかないかのレアケースです。

 一方の買い手企業はどうでしょうか。
 資金力のある買い手企業や、M&Aの仲介会社や、私たちのような助言会社は、過去に何十件、何百件、何千件の案件をまとめてきた「強者」です。
 何度も「会社を買う」ことを経験しているため、交渉などの経験値に圧倒的な差があることがほとんどです。

 つまり、売り手企業は、
・知識がない
・情報がない
・経験がない
 
という「3ない」状態なのです。

 ということは、売り手企業にとって不利な取引になる可能性も高いのです。つまり、安く買い叩かれてしまうということです。
 さらに言えば、売却するのが自分の会社ではないため、思い入れの希薄な「いい加減な業者」が少なくありません。知識と経験のないオーナーや経営者を手玉に取ってぼろ儲けしようとする、不届きな輩もいます。
 そこまでの悪意がなかったとしても、売り手企業の知識不足により買い手企業にいいようにあしらわれ、不当に安い価格で売却させられてしまう可能性は否定できません。

 M&Aが増えている今こそ、こうしたトラブルを事前に避けるため、売り手企業であるみなさんに、 ・正しい知識 ・正しい情報 ・自社の強みを見極める目 を身につけてもらいたいと思っています。
そして、安心して一生に一度の一大イベントを、幸せに乗り切っていただきたいのです。

※次回は、売り手企業が億単位で大損した「怒りの事例」をご紹介します(7月11日公開予定)。