どうすれば「レア」な存在になれるのか

柴山 現代において、安宅さんの教え子たちは、どうすればいいですかね。

安宅 彼らは、「いかに変な生き物化するか」に知恵をしぼるべきですね。普通だったらしないような経験を一つでも多くするべき。

柴山 一つでも多く、ということは、組み合わせが重要だからですか。

安宅 組み合わせるのが一番ラクだからです。ある軸で上位3~5%にいるのはそんなに難しくないけど、100万分の1になるのは並大抵のことではないから。かけっこでウサイン・ボルトに勝つようなものですよね。だから、20分の1とか、30分の1のレベルで勝てる領域を3つ探すわけです。上位20分1を3つ組み合わせれば、8000分の1の稀少な存在になれる。

 亡くなったマイケル・ジャクソンなんかは、その領域ですよね。歌手かダンサーかエンターテイナーかわからなくて、「マイケル・ジャクソン」としか説明できない。どの軸でもトップ1%だとは思いますが、あのような数百万分の1の存在になれたのは、たくさん軸があったから。最近でいえば、落合陽一さんも、研究者なのかアーティストなのか表現者なのかよくわからないから、「落合陽一」としか説明がつかない。彼もすべての軸でトップ1%だとは思いますが、軸の多様性と掛け合わせ方が尋常ではない。だから、特別な価値があるんです。既存の尺度で測れなくなることが大事。そこまでいくと、誰からも意味不明な領域に入り、彼らの尺度でいじめられません。

柴山 幸せになれる、ということですね。

安宅 そう。他人の尺度で測れなくなったらOKです。完全に異質な何かになった時に、自由になれる。さきほどのマタイ伝じゃないけど、狭き門の命に至る、なんですよ。それ以外の道には、ライフがない。ノーライフ

測定不能な存在になることは、目的なのか結果なのか…と柴山さん

柴山 測定不能な存在になる、というのはすごく大変ですよね。ただし、レアになること自体が目的ではない、ということですか。結果としてレアになる、ということ――?。

安宅 いや、レアになろうと意識すべきだと思います。尺度で測れるということは、代替可能な部品と同じです。代替不可能になることが重要。どういう手段でもいいから、レア化しろ、ということを、若い学生たちには絶対に伝えたい。先ほども言ったように、組み合わせのほうがラクだけど、1軸でレア化するなら、誰も目指さないことで頑張るのが基本ですよね。

 僕が学生のころに読んでとても感銘を受けた本のひとつに、立花隆さんの『青春漂流』(講談社)という本があるんです。そこに、いろんな変わった人が登場するんですよ。たとえば、それまで誰も日本では真面目に目指したことのないフランスのソムリエコンクールで優勝して、今や誰もが知る田崎真也さん(当時25歳)とかですね。当時はワイン自体が全然出回っていなくて、外交官やお金持ちぐらいしか飲んだことがない、というような時代でした。そういうふうに、話題になる前、ブレークちょっと前のものを狙うのがいいですよね。

柴山 なるほど。1軸で目指すなら、誰もやったことがない、ブレーク前のものを究める。それができないなら、レアなことを組み合わせる。トップ5%(偏差値66)ぐらいに究めたものが3つあれば、それらを組み合わせて、世界の8000分の1の存在にはなれる、ということですね。

安宅 はい。立花さんの『青春漂流』はあまり知られてないけど、『宇宙からの帰還』と並ぶぐらい素敵な本なので、おススメです。僕は非常に勇気をもらいましたね。これでいいんだ、と思って。

柴山 今回お話を伺って、レアな人材を目指すことが大切な理由がよくわかりました。確かに、偏差値80の世界というのは、そこまでがんばってもなお競争が苦しいし、周りと自分を比べがちになるので、幸せからは程遠い世界です。

 自分の好きなことをしてトップ5%(上位20分の1)に入れるものをみつけ、それを3つ組み合わせることで、上位8000分の1のレア人材になろう、という安宅さんの知恵は、合理的かつ実践的です。

 ただ、3つの組み合わせ、というのは容易ではありません。たとえば、金融専門の弁護士だと、金融x法律で2つの組み合わせですね。それだとまだまだ十分にレアとは言えず、競争が大変です。金融専門の国際的な弁護士で英語で仕事ができると、金融x法律x英語の3つでレアな人材になれる、ということですよね。

安宅 たしかに、楽な道かと言われればそうではないです。

柴山 つまり、意識的にキャリアを設計し、勇気をもって努力していくことが大切だという意味ですよね。(次回は、7/12(金)公開! さらに議論のスコープを拡げ、議論は日本経済を活性化させる方法へ)