在籍時期は異なるものの財務省の先輩後輩にあたる、小幡績さんと柴山和久さん。行動経済学を専門とする小幡さんが、柴山さんに謝罪するというそのワケとは? 小幡さんは謝りつつも、ウェルスナビのお客さんはどういう人たちなのか、オフ会はやらないのか、どんな基準で投資対象を選んでいるのかなど、ウェルスナビのサービスについて自由にあれこれ聞いていきます。面白対談の前編をどうぞ!(撮影:疋田千里)

かつて小幡さんは柴山さんにどうアドバイスした?

小幡績(おばた・せき)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
1992年東京大学経済学部卒業、大蔵省(現財務省)入省、1999年退職。2000年IMF、2001年~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2001年Ph.D.(経済学)(ハーバード大学)取得。『ネット株の心理学』(毎日コミュニケーションズ, 2006)『すべての経済はバブルに通じる』(光文社, 2008)など著書多数。

小幡績さん(以下、小幡) 今日は柴山さんに謝罪をしに来ました。ときどき財務省を辞めた人が集まる会で会うんですけど……

柴山和久さん(以下、柴山) そうですね。小幡さんとはその集まりでお会いしました。

小幡 財務省の在籍は重なっていないので、僕もその集まりを通じて柴山さんのことを知ったんですよね。

 あるとき「小幡さん、行動経済学や行動ファイナンスがご専門なんですよね。正しい投資をナビゲートするウェルスナビというサービスに応用できないでしょうか」と柴山さんから話しかけられた。健全な個人や社会のためになるから、ということだったんですけど、僕はそのとき思わず「やめとけ」と言いました

 投資のことをよくわかっている人は、ETF(上場投資信託)で、株と債券と不動産をバランスよく買って終わり。投資をわかっていない人は、投資なんて自分には関係ないという人か、急に投資したくなって興奮状態ですごく儲かるアドバイスを探している。だから、その中間にあたる「地道に普通に投資をしたいけど自分は知識不足だから、ウェルスナビみたいな適切なサービスを使いたい」というマーケットはそう大きくない。良いサービスかもしれないけど、広がらないしうまくいかないから「やめとけ」って言ったんです。でも、いま預かり資産が1000億円を超えたんですよね。お客さんはたくさんいましたね。というわけで、あのとき「やめとけ」なんて言って申し訳なかった

柴山和久(しばやま・かずひさ)
ウェルスナビ株式会社代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

柴山 おかげさまで、正式リリースから2年7カ月で預かり資産は1300億円になりました。これは先行するアメリカのロボアドバイザーのベンチャーより速いスピードです。もちろん少子高齢化が進む日本は年金や退職金の先行きが不透明で、マーケットは相応に広げられるという仮説で始めました。

小幡 とはいえ僕の立場からは、1000億円規模という途中経過は、まだ少し疑問には思うところもあるけどね(笑)。だって、柴山さんは預かり資産を今の1000倍、いや少なくとも100倍にはしたいでしょ。

柴山 そうですね。誰もが使える「インフラ」になるには、預かり資産が少なくとも今の100倍(約10兆円)になる必要があります日本の働く世代を豊かにしたいというビジョンを実現するためにも、事業をもっと大きくしていかなければなりません。

悩みを分かち合えるコミュニティが必要?

小幡 柴山さんが描いているところからすれば、極端にいえば、まだ想定の1%以下だというわけですよね。今はまだ大成功じゃないかもしれないけど、金融業界の人たちができないと思っていたことに挑戦して、ここまできてるからすごい。お客さんと会って話すことはあるんですか?

柴山 これまでセミナーを80回以上やってきてのべ2000人ぐらいお会いしてます。最初のうちは、セミナーの参加者が少なくて、ほぼマンツーマンという会もあったんですけど、最近は多いと100人以上の方々がいらっしゃいます。

小幡 どういうお客さんが多いんですか。

柴山 それは本当にいろんな方々で……。投資経験豊富でかなり詳しい人もいれば、預金以外に一歩踏み出すのは不安でたまらないけれども何かしないといけないと思っている人もいます。セミナーを開くときには「上級者向け」「初心者向け」と銘打って、それぞれのニーズにあった内容を伝えられるようにしています。

小幡 投資の上級者も、ウェルスナビのセミナーにいらっしゃるんですか?

柴山 はい。投資経験が豊富で、一家言あるような方でも、結局のところどうしていいのかわからなくなった、あるいはご自身の意見をもって議論を深めたいという気持ちでセミナーにいらっしゃる方も実は多いんですよ。

小幡 セミナーに来たお客さん同士で仲良くなったりすることもありそうですね。オフ会を作ったりはしないんですか?

オフ会の必要性について語り合う2人

柴山 オフ会ですか!? 確かに、日本では、資産運用についてオープンに話し合える場がないから、個々人が孤独に悩んでしまっています。たとえば、財務省でも同僚とお金の話をしなかったですよね。マッキンゼーで働いていたときなど、アメリカのオフィスではご飯を食べながら資産運用の話をしていたけど、日本のオフィスでは全くしていなくて、対照的でした。

 日本はそういう環境ですから、似たような投資経験をもつ方を集めたセミナーは、自分と同じような悩みや疑問をもっている人がたくさんいるんだなと確認し安心していただく機会でもあるようなんですね。だから将来的には、コミュニティを作ったほうがいいなと思っています。

ウェルスナビを使わなくてもできる?

小幡 あえて意地悪く言いますけど、ウェルスナビを使わなくても、グローバルな分散投資はできますよね。すごく単純化すると、グローバルに分散して株や債券のバランスを取って、買うタイミングも分散させればいい。年齢と資産、収入で、どんなポートフォリオを組んだらいいかは、ほぼ決まってくる。ファイナンス理論の基本中の基本のロジックからすればそんな意見もありそうですが、そこはどうですか。

柴山 理論上はその通りですね。20代など若い方だと株式中心、退職前なら株式と債券が半々くらいと言ったように、ポートフォリオのパターンは大きくいくつかに分けられます。ですから、グローバルな分散投資をする上で、ウェルスナビの利用は必須ではありません

 一方で現実を見てみると、「長期・積立・分散」の資産運用がほとんど行われていないのが日本の実状です。

 分散投資に欠かせない投資信託の残高は73兆円(2018年3月末)と、個人金融資産全体の5%をきっています。平均保有年数も3年程度ですから長期で持つこともできていない。金融庁の統計によれば、「つみたてNISA」も導入から半年で60万口座ぐらいのペースです。1年間で100万件くらいでしょうか。一般的な金融商品の稼働率が6割であることを踏まえると、稼働している「つみたてNISA」の口座はわずか60万口座強だと推測されます。つまり日本では長期・積立・分散が普及していないと言えると思います。

 理論的には、「長期・積立・分散」にウェルスナビは必須ではありませんが、客観的にデータを見れば、このままでは日本の働く世代は「長期・積立・分散」を活用できないことが明らかです。だからこそ私は、ウェルスナビのような新しい仕組みによるサポートが必要だと考えています。

小幡 ウェルスナビのセミナーに来てみて、アドバイスを聞いただけであとは自分でやります、となってもいいんですか。

柴山 もちろんです。ウェルスナビのホームページの「よくある質問」のページにも、「シミュレーション結果をそのまま他の証券会社で取引してよいのでしょうか?」という質問に「もちろん他社でお取引いただくことも可能です」と回答しています。

小幡 そうなのか。無料診断をやってみようかな。運用手数料はどのぐらい?

無料診断やってみようかな、という小幡さん(右)に、「ぜひ」と説明する柴山さん

柴山 是非やってみてください。手数料は、1年間当たり預かり資産の1%です。通常は10万円から運用できて、いま1人平均約110万円を預けてくださって、預かり資産総額は1300億円になっています。ほかに、端数で預かった「おつり」をためて運用する「マメタス」というサービスでは1万円から可能です。

小幡 ウェルスナビを利用するプロセスを聞いておくと、まず無料診断を受けて、リスク許容度とか毎月いくら積立するかといった希望に応じて、運用プランが提示されるわけですよね。たとえば僕がいまやってみると、ポートフォリオが提示されましたけど、この「不動産」と表示されているのは固定商品ですか?

柴山 今であれば、IYRというREIT(不動産投資信託)を組み込んだブラックロックのETFで、固定商品です。定期的に見直しています。

小幡 ETFだから、選んだ先からキックバックをもらってないかということは明らかなわけですね。どんな基準で商品を選んでいるんですか。

柴山 基本的な条件は、マーケット全体を総合的にカバーしていること、預かり資産が大きくて安定していることなどです。条件に合った商品のうち、手数料が一番低いものを選んでいます。細かい基準はホームページに掲載しているホワイトペーパーで開示しています。

海外の大型ETFを組み込めることのメリット

小幡 流動性リスクもないし、信頼性も高いものということですね。基本的にすべてパッシブでカバレッジが大きいとなると、結果的には著名なETFになりますよね。

柴山 そうですね。預かり資産も銘柄平均で4~5兆円という大型のETFになります。

小幡 運用会社はほとんど海外のものになるんですかね。

柴山 そうです。日本だと預かり資産が100億円未満の投資信託が8割で、先ほど申し上げた基準に当てはまるものがないためです。

小幡 そういう海外の大型ETFは手数料が固定なんでしたっけ。

柴山 日本で海外のそういうETFを買う際は、ロットが小さいと手数料は割高になる傾向にありますね。

小幡 ですよね。ということは、ウェルスナビを通じて買うと、そこはお得ということですね。そこはウリだよね。

柴山 確かに、ウェルスナビを通じて買うと実は手数料が低くなるケースがわりとあるんですけど、そこはウリにしていないんです。というのも、日本では、そもそも安定したETFを選んで長期で積み立てていくことの重要性があまり認識されていないですから。重要性が認識されていなければ、メリットをアピールのしようもありません。

小幡 とはいえ、そこのメリットは教えてあげたほうがいいんじゃないですか。毎月海外ETFに積立投資をしようとすると、手数料が割高だから積立損になるんだよね。

柴山 日本で海外ETFを買おうとすると、そうなんですよ。仮に、一括で1000万円を投資にまわすなら、自分で海外ETFを買ったほうがウェルスナビをご利用いただくより手数料は安くなります。一方で、余裕資金の一部(ウェルスナビの平均預入額は約110万円)で投資を始めて、月に数万円(ウェルスナビの平均積立額は約3万5000円)ずつ積み立てるとすると、1%の手数料で同様のサービスが受けられるのは割安だととらえていただけるとは思います。(後編につづく)