従来の施設との最大の違いは
「普段の生活」があること

 この「農場ケア」について、地元の認知症ケアの研究者から話を聞くことができた。ザールブルッケン大学のヨハネス・グラスケ教授である。

沢山のアヒルを見入る入居者沢山のアヒルを見入る入居者

「農場ケアが従来の介護施設と違うのは、なんといっても普段の生活があることだろう。介護施設では、意味のないアクティビティばかりしている。だが、ここでは、動物の世話や調理、食器洗いなどどれも生活に必要なこと、つまり意味のあるアクティビティですね」と話す。とりわけ、先進諸国で大きな課題となっている認知症ケアにアクティビティは重要なことだ。

「意味のあるアクティビティだから周りの人や社会に役立つことになり、本人のQOL(生活の質)の向上につながる」

 それは入居者たちの日々の体調や生活ぶりからはっきり立証できる、という。

「自分で調理するなど準備に携わるとおいしく感じられる。食欲が高まり、栄養失調になり難い」。「心の面からもいい。動物と接したり、農作業をしたりすると、個人の自由が十分に発揮される。自由を奪われずに尊重されることは認知症ケアにとって重要なことだと思う」(グラスケ教授)

 確かに、大きな介護施設では期待される役割もなく、隣人との会話も少なく孤立しがちだ。人数が少ないことで、互いの関係が深まり家族のようなつながりが生まれ、精神的に安定する。

豚と入居者のツーショット豚と入居者のツーショット

 グラスケ教授は、このような「農場ケア」を「グリーン・ケア・ファーミング」(緑の農業ケア)と名付ける。緑の自然が生活のベースになる。そのうえで家族のような入居者やスタッフたちと一緒に動物たちを育て、共に笑い合う。認知症の人でなくても、居心地がいいだろう。

 でも、認知症ケアなどケアサービスを、農家の人ができるのかという疑問が湧く。「ケアのプロに頼んできました」とプッシュさん。「でもこの7月からは、うちで介護職員を雇って独自に介護サービスを提供していきたい。そのための介護事業所を設立したばかりだ」と、介護サービスにも本腰を入れるという。