イノベーションに求められる「野生の思考」

 ということで、ここで重要になるのが「何の役に立つのかよくわからないけど、なんかある気がする」というニュータイプの直感です。

 これは人類学者のレヴィ・ストロースが言うところの「ブリコラージュ」と同じものと言えるでしょう。

 レヴィ・ストロースは、南米のマト・グロッソのインディオたちを研究し、彼らがジャングルの中を歩いていて何かを見つけると、その時点では何の役に立つかわからないけれども、「これはいつか何かの役に立つかもしれない」と考えてひょいと袋に入れて残しておく、という習慣があることを『悲しき熱帯』という本の中で紹介しています。

 そして、実際に拾った「よくわからないもの」が、後でコミュニティの危機を救うことになったりすることがあるため、この「後で役に立つかもしれない」という予測の能力がコミュニティの存続に非常に重要な影響を与える、と説明しています。

 そしてこのブリコラージュこそが、予定調和を過度に重んじるオールドタイプと対比される、ニュータイプの思考様式ということになります。

 レヴィ・ストロースは、この不思議な能力、つまりあり合わせのよくわからないものを非予定調和的に収集しておいて、いざというときに役立てる能力を近代的で予定調和的な道具の組成と対比して考えています。

 レヴィ・ストロースは、サルトルに代表される近代的で予定調和的な思想(つまり用途市場を明確化してから開発する、といった思考の流派)よりも、それに対比される、より骨太でしなやかな思想をそこに読み取ったわけですが、実は近代思想の産物と典型的に考えられているイノベーションにおいても、ブリコラージュの考え方が有効であることが読み取れるのです。

 翻って、現在の日本企業においては、「それは何の役に立つの?」という経営陣の問いかけに答えられないアイデアは資源を配分されません。しかし、世界を変えるような巨大なイノベーションの多くは「何となく、これはすごい気がする」という直感に導かれて実現しているのだということを、我々は決して忘れてはなりません。

(本原稿は『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口周著、ダイヤモンド社からの抜粋です)

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。