今では、ご存じのように中国はGDPで日本を追い越し、ICT(情報通信技術)もすさまじく発展している。
その発展が、上記のようなODAや国際協力のおかげではないことは明らかだ。なにせ、寄贈したワークステーションが「使われていなかった」くらいなのだから。
われわれは、何を間違えたのだろう。
なぜ、ODAが無駄になってしまったのだろうか。
その答えらしきものが、クレイトン・M・クリステンセン氏の最新作『繁栄のパラドクス』から見えてきた。本書では、持続的な「繁栄」を創り出す「市場創造型イノベーション」の力(パワー)が論じられている。
主著者であるクリステンセン氏は、ハーバード・ビジネス・スクール教授。名著『イノベーションのジレンマ』で破壊的イノベーションの理論を打ち出した、イノベーション研究の第一人者として知られる。
同氏は本書で、アフリカなどの貧困国・地域に、他国が金銭的あるいは物的な援助をすることで、かえって長期的な繁栄から遠ざかることがあると指摘。これを「繁栄のパラドクス」と名づけている。
繁栄のパラドクスの一例としては「米国のNPOがナイジェリアに井戸を建設したものの、故障しても現地民には修理ができず、結局使われなくなった」といった失敗例が紹介されている。
前述の中国へのワークステーション寄贈も同じことなのだろう。ある国にインターネットやワークステーションがないからといって、それらを単に輸出すればいい、というものでもない。
本書の理論を応用するならば、当時の中国には、インターネットやワークステーションを受け入れられる環境も整備してあげなければならなかった。すなわち必要なのは「市場の創造」だったのだ。