「無消費」から新たな市場を創造した
ソニーのウォークマン

 本書には、これまでにニーズがなかったところに新しい市場を創り出す「市場創造型イノベーション」が、社会の繁栄に結びついた事例が多数紹介されている。

 その中には、かつての米国や日本、メキシコなどの経験が含まれているのだが、とりわけ日本のソニーの事例には圧倒される。本書によるとソニーは、1952年~82年に12種類もの「新しい市場」を創造したのだ。

 中でも、多くの人の印象に残るソニーのイノベーションといえば「ウォークマン」ではないだろうか。1979年に初代の製品が発売されたウォークマンは、今では当たり前になったiPodに代表されるポータブル音楽プレーヤーのルーツともいえる商品だ。

 ウォークマンが登場する前は、音楽は室内のオーディオ装置(ステレオ、コンポなどと呼ばれた)で聴くのが当たり前で、携帯して、いつでもどこでも聴けるとは、消費者の誰も思っていなかった。

 販売前にソニーが実施した市場調査では「録音機能がないテープレコーダーなど欲しくない」「イヤホンでしか聴けないのは煩わしい」といった声が寄せられたそうだ。

 しかし、ソニー共同創業者で当時会長だった盛田昭夫は「人々が何を欲しがるはずかを、直観を働かせて見極め、そこに突き進め」と社員を鼓舞。調査結果を無視して販売に踏み切った。

 その結果ウォークマンは、事前予測を大幅に上回り、2ヵ月で5万台以上を売り上げる大ヒットとなった。

 そしてこの成功を受けて、東芝や松下電器(現・パナソニック)など多くの企業が競うようにして類似製品を市場に投入していく。