市場創造型イノベーションが
圧倒的に足りない現代ニッポン
クリステンセン氏は、イノベーションには「(1)市場創造型」の他に、「(2)持続型」と「(3)効率化」の2タイプがあるとしている。
一言でいうと、(2)持続型イノベーションとは、市場にすでに存在する商品やサービスの改良。(3)効率化イノベーションは、文字通り、商品やサービスの提供などのプロセスを効率化するものだ。
まず(1)の市場創造型イノベーションが新しい市場を切り開き、その市場を持続させるために(2)と(3)がある、といった構図だろう。
最近の日本企業には、市場創造型イノベーションが、圧倒的に不足しているのではないだろうか。それが、ICTや製造業で中国の後塵を拝している一番の要因と思える。
中国は、このわずかな年数で、無消費を利用してどんどん市場の創造を行ってきた。それに必要とあらば、ちゅうちょなく新技術や人材、資源を海外から持ってくる。そして海外にも次々に市場を創り出している。
昨年から雨後のタケノコのように登場する「○○Pay」と名のつくキャッシュレス決済を例に見ても、中国などで創造されたビジネスや市場を日本に持ってきて、改良や効率化を図るケースが多いのではないか。これはつまり、持続型か効率化のイノベーションでしかない、ということだ。
キャッシュレス決済が、中国や韓国、北欧のように爆発的に広まらない理由はいろいろあるだろう。その中に、既得権益にしばられて持続型か効率化のイノベーションしかできず、なかなか市場創造型イノベーションを起こせない、日本特有の構造があると思われる。
バブル崩壊以降、失われた20年とも言われ低迷を続ける日本経済を再興するには、市場創造型イノベーションを見直す姿勢があってもいいのかもしれない。
本書に満載されている「繁栄」の事例を参考に、これから日本企業や日本社会が繁栄するために何をするべきか、長期的な視点で考えてみてはいかがだろうか。
(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)