大量殺人者の共通点とは?

 「たとえば、人間よりも上位の存在である『神』を信じる者……。
 たとえば、自分自身の政治思想を『正義』だと信じる者……。」

「万単位での大量虐殺を引き起こしてきたのは、いつだって、そういう人間たちだった。枠の外側……理想の存在に入れ込む人間は、枠の内側……現実の存在を蔑ろにしがちである。だからこそニーチェは、ありもしない、見たり触れたりできない、『神』や『道徳』を崇拝するのではなく、現実の存在―哲学の世界では格好良く『実存』と呼ぶが―その実存に目を向けた生き方をせよと強く訴えかけたのだ。この、実存を重視する考え方を『実存主義』と呼ぶ」

「これは、もちろん、系譜としては右側の現実的な哲学であり、『経験主義と合理主義の対立』の次に現れた哲学なのであるが……、以後、哲学史において、それに対立する左側……絶対主義を祖とする哲学はまったく出てこなくなる」

 え、そうなんだ。2500年も続いたのに!?

「哲学史は、このあとも、構造主義や道具主義やポスト構造主義など、さまざまな主義主張、哲学体系を生み出していくが、実のところ、それらはすべて右側の哲学―真理や正義を相対化して否定する考え方のものばかり」

「つまり、哲学の歴史……善や正義を追い求めてきた人間の思索の歴史は、ある意味、ニーチェが終止符を打ったと言っても過言ではないのである」

 そうか、だからなのか! 哲学者といえば、ソクラテスとニーチェがすごく有名だけど、その理由が今実感としてわかった気がする。善を追求する哲学の歴史をソクラテスが始めて、それをニーチェが終わらせた。つまり、「善く生きる」と「神は死んだ」。だから、この2人が哲学において超重要人物なわけなのか。

次回に続く