アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

男同士で頬ずりすることも!もし、イスラム教徒と仕事をすることになったら?Photo: Adobe Stock

「ハラールフード」は用意しないほうがいい?

 イスラム教徒と仕事をするなら、食事には気を使わなければいけません。食べてはいけないものがコーランに厳しく定められており、特に豚は全面禁止となっています。

 最近、日本でもムスリムの観光客増加に伴い、ハラールフード(イスラムの戒律で許された食事)の認証ステッカーを掲示しているレストランが出てきました。

 ところが「ご安心ください、ハラールフードです」というこの気遣いは、実は日本人の片思い的なところもあるのです。なぜならイスラム教徒から見れば、日本のそれは“なんちゃってハラール”。

 「あなたはムスリムではなく、アッラーもコーランも理解していない。しかも自分は豚を食べて酒を飲んでいる。店で売るものだけハラールにしても本質的ではない」

 本音ではそんなふうに捉えている人もいるようです(もちろんハラール認証はイスラム教徒に対する配慮であることは間違いないのでマイナスにはならないでしょう)。

 豚由来の調味料も、豚を入れたことがある冷蔵庫もNG。豚由来のコラーゲン化粧品もNGですから、日本人が「ハラールです!」と胸を張るのは、厳格な認証を取れば別ですが、現実問題として難しいかもしれません。

 私のイスラム教徒の友人は、「『ハラール』より『ムスリム・フレンドリー』くらいの軽い表現のほうが誠実で感じがいいよ」と言っていましたが、なるほどと納得しました。

 つけ加えておけば、「豚だと知らずに食べた場合、悔い改めれば許される」と解されているので、それほど神経質にならなくてもいいでしょう。

 逆に、日本人がイスラムの国に行く場合は、豚がないだけで牛肉やチキンは食べられるので、「毎日トンカツを食べないと嫌だ」というのではない限り、困ることはなさそうです。

 また、日本人はビジネスがらみの会食が多く、たいていお酒が入ります。ところがコーランでは、アルコールは禁じられています。実際、どのようにつき合うべきでしょうか。

 中東と東南アジアのイスラム教徒を比べれば、礼拝や断食など戒律を守ることの厳しさについては、東南アジアのほうが若干緩やかです。もちろん個人差も大きいです。たとえば、エジプトではお酒を売っていますし、エジプト人のイスラム教徒の家に行くと「ちょっと内緒で一杯やるか」と、ニヤッとしながらお酒が出てくることも珍しくありません。イランでも自宅ではワインを飲んでいるイスラム教徒がいます。

 もっとも、お酒を飲むのはもちろん見るのも嫌だという人もいます。

 そのため結論としては、イスラム教徒との会食などの際は、「アルコールなし」にしておくのが無難でしょう。相手が実はお酒を飲みたいと思っていることが明確にわかる場合だけ、お酒を準備したら良いと思います。